今でもおまえが怖いんだ
「宗徳さんのところは普通に法事とかはやるんですね」

商業施設の密集している矢場町まで徒歩で移動しながら私は言葉を選んでそう言った。

宗徳さんはしばらく沈黙してからようやく意味を理解できたというように「ああ!」と飛び跳ねるようなリアクションをとった。

「いや、俺は無宗教だから積極的に法事とか冠婚葬祭には出席するように心がけているけれども」

やっぱり出席率は異常に悪いんだよね、肉親は来ないしね、あと姉も来ないね。

今日来た人たちの人数を思い出すように指を折りながら彼は言った。
片手で指折りが止まった時点で、彼のご実家の状況がうかがえずとも何となくは察することができてしまう。

「うちの宗教は仏壇に向かって座れないからなあ。あとやっぱりお坊さんに敷居を跨がれるのを嫌がる人が多いせいで、今日行った家に仏壇を詰め込んじゃってて。圧巻だったよ。インスタ映えしそうなくらい、寺かよってくらいもうね、オシャレ。写真撮ってこれば良かったな」

冠婚葬祭と言えばさあ、この前知り合いがバイクで事故起こしてさあ……と宗徳さんは話しを続けていく。
それに対して相槌を打つ時間は嫌いではない。
彼との会話のテンポはそれぞれマイペースだからあまり噛み合わないのだけれど、たまにピタッとチャンネルの合うことがあって、お互いそれが心地いいものだから一方通行だろうとすれ違っていようと会話は続いていく。

うん、うん、と頷く自分の表情がいつもよりずっと緩んでいる自覚があった。

宗徳さんのにやにやとした表情も、私は嫌いではなかった。

「今日、この後用事とかある? ないなら俺の買い物付き合って。トイレットペーパーと台所用洗剤とコロコロ切らしてるんだよね」

ひとしきり話した後にそう言われ、私は迷うことなくそれでも緩慢に頷いた。

暇ですよ、って。
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