今でもおまえが怖いんだ
ep.11 林原直樹
「また話そうね!」と電話を切ったきり、こちらから連絡をずっとしていなかった。
向こうからはLINEが何度か来ていたけれど、それらに既読を付けても返信をすることはなかった。
することができない状況にいた。

だから何ヶ月ぶりか分からない直樹君からの着信に私は身体を縛っていた緊張のすべてが解けてしまった。

国道沿いのラブホテルの前でへろへろと座り込みながら通話ボタンを押して、「迎えに来て」なんてらしくない言葉が口をついて出た。

なんてことを言ってしまったのだろうと頭の半分では思っていたけれど、半分以上は本音だった。
この一言を理由に嫌われてしまったらそれまでだった。
面倒なことならご免だよと言われて当たり前だと思っていた。

けれど、珍しく相手の反応を考えずに放った言葉に対して、私は少しもしまっただとかネガティブな反省を抱けないままでいた。

「いいよ」

いつか聞いた通りの声が、電話の向こうからは聞こえてきた。

「そのつもりで電話したんだし」

直樹君の話し方はいつだってとても優しい。
すぐに返事をしなくて、一拍空けてから話し出す。
言葉を選ぶようにゆっくりとしているから、キツい言葉を使わないというイメージ。

電話をとろうと思えたのも、彼なら自分を傷付けてこないだろうと思ったからだった。
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