今でもおまえが怖いんだ
――自分、絶対に絶対に幸せにしますから。

私の話を聞いて泣きながらそう約束してくれたあの人のことを思い出す。
あの時は本当に嬉しかった。
約束が嘘になる日が来るだなんて思ってもいなかった。

――絶対に許さねえからな。

部屋を飛び出した時、そんな怒鳴り声が聞えて来た。

振り下ろした2Lペットボトルがボコっと嫌な音を立てて、相手のどこか悪いところに当たってしまったと思う。

大丈夫? とそれを確認するだとかごめんなさいと謝るだとかそんなことはしなかった。

今のうちだ、と思ってしまった。
もう相手に言葉も気持ちも通じないと分かった途端、逃げなくてはと思った。

アレは私の片想いでしかなかったのだと思う。

身分不相応に夢なんか見てしまったから罰が当たったのだろう。

あの人は私には勿体のない人だった。そう思うことにした。

それにしても、殴られた頬が、抓られた首が、叩きつけられた後頭部が、力いっぱい掴まれた両の手首が。
それ以上にこんなものを恋だと信じて縋り続けた自分が。
「痛いなあ」って泣けてきた。
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