きみに花束を贈る日
廊下へ出ると、もう人の姿は見られなかった。
窓からオレンジの光が差し込み、白い床を照らしている。

外からは、まだ部活をしているのだろう、笛の音や走る音、「カキン」とボールを打つ音が聞こえる。

誰もいない廊下にはわたしと先輩の二人分の足音が響く。

「鞄取ってくるから、少し待ってて」

そう言って先輩は3年5組の教室へと入っていった。

ちらっと教室を覗くと、教室の脇の小さなテーブルに花瓶が飾られている。
生けられた花は明るい紫色をしていて、花びらはハート形で可愛らしい。

お花の知識がないわたしにはなんの種類が分からないけれど、とても綺麗だなと思った。

教室にお花を飾っているのはあまり見たことがないけれど、先生の趣味なのかな。
松村先生も好きそうだけど。

そこへ先輩が鞄を持って戻ってきた。

「ごめん。お待たせ」

「いえ。...あの、飾ってあるお花はなんていう種類なんですか?」

わたしがお花を指差すと、先輩も視線を向けた。

「あれか。ライラックって名前な花だよ。気になった?」

「はい。なんか可愛いなーって思って」

すると先輩は花瓶の方へ歩いて行き、わたしの方を振り返って「入っていいよ」と言った。
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