いつかは売れっ子グラフィック・デザイナー
「おおっ、これは?」その夜の食卓で俊介が声を上げた。「ス、ステーキじゃないの!」
 驚きの顔つきで俊介が彩香を見た。彩香は視線をちょっとそらして笑顔になった。
「予告してたでしょ」
「あ? おう、そうか。君の知り合いの会社のシャッチョさんが15万払ってくれたんだ。ははあ、君のドヤ顔は初めて見たよ」
「何を言ってんの」彩香は笑った。「せっかくの臨時収入なので、ご馳走を作ろうと思ったの。でも、手の込んだ料理よりあなたはやっぱりステーキが一番喜ぶと思ったの。どう?」
「いやもう、ありがとう、サンキュー」
 俊介はひたすら頭を下げた。彩香の料理に講釈を垂れても得になることは何もないと学習しているからだ。
「祐子はね、また次もお願いする、って言ってくれてるの」
「そうか、よかったね」
 俊介は返事をしながらもステーキに集中している。
< 16 / 26 >

この作品をシェア

pagetop