いつかは売れっ子グラフィック・デザイナー
彩香の手が止まった。
「えっ」
「彩香が絵を描くのが好きで、それでセンスがいいんだから、きっとやってくれると思うんだ。学生の頃からコツコツ真面目に勉強する方だったし」
「イラストって…どんな」
 祐子はバッグからスマホを取り出し、人差し指を滑らせた。
「これがうちのサイト。エスニックな服とか小物とか、輸入品と日本製品と半々くらいに扱っているの。それに最近はオーガニックなお茶とかクッキーとかも始めたわ。今後はいろんなグッズを増やしていこうと思ってるの。それにキャラクター商品」
 祐子はスマホを差し出した。そこには色鮮やかな動物の写真が何枚も並べてあった。
「うわあ、可愛い…。綺麗な色」
「でしょ? 狐とかタヌキ、リスなどの仲間だけど、エスニックなだけあって、色が綺麗だよね。いいと思わない?」
「すごい、きれい」
「こんなのをイラストにしてくれる?」
「えーっ、うわあ…」
 彩香は言葉に詰まった。私がイラスト?
「彩香ならきっと素敵なの作ってくれると思うわ。もちろんそれなりのお金は払います。試しに色々作ってくれて、それを見せてもらって手直しして…。結構な手間がかかるからね」
「うーん」
「この3種類の基本の形を描いてもらって、15万で考えているんだけど、どう?」
 彩香は目を見張り、小さく口の中で15万、と繰り返した。
「参考にするための写真はいくつか提供するわ。それと大体の参考にしてもらうイメージもあとで送るわ。あまりプレッシャーを感じないでね。メールかテキストで連絡を取り合って一緒にやっていきましょう」
 祐子はスマホを操作すると、ライバルとなる会社のウェッブサイトや、参考にする画像をいくつか紹介した。彩香が使っている画像ソフトや、最近彩香が習い始めたソフトが何かなどを確認し、うなづいている。
 こんな話があるなんて。
 大体の話を終えて満足げな祐子を前に、彩香はしきりに小さく首を左右に振った。何となく夢心地、とはこういうことを言うのかしら、と彼女は思った。

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