恋の証
「いいねそういうの。成田さんは面白い人だ」


「っ!?」


「女子って、ああいう感想しか言わないと思ってたから新鮮だ。俺も成田さんと同じ意見だったから、よりびっくり。一字一句一緒」


ふと、気づけば知らない男の人が隣に立っていた。ああいうのと言う指先は、例の先輩たちを向いている。


私の独り言に打たれたであろう相槌に驚いて声を出せずにいたところ、男の人は自らを越野だと名乗ってくれ、しばらくその顔を見上げていると、離れたフロアで働く派遣の人だと一致した。
動揺と、太陽の下といういつもとは違う状況下によってすぐには気づけなかったのだと言い訳をしながら私も名乗ってみれば、越野さんは私のことをとっくに認識済みだったようで恐縮する。


謝罪と共に、越野さんにもうひとつのことにも弁解を述べておく。軽く漏らされた噂話によって今後の社内での立ち位置が微妙にならないためにも必要なことだ。


「いつもは優しい先輩なんですよ。ただ……どちらの人かは言えませんが、あの奥さんの旦那さまである男性社員に昔振られてるから、ああいう言葉も飛び出してしまったのかと」


「そう」


それだけ言って、越野さんはもう興味をなくしたのか先輩たちから意識は離れ、旦那さまも合流し仲睦まじく遊ぶ一家の様子を撮影していた。


越野さんのカメラは、巷に溢れるカメラ女子が持つものよりも本格的なもののように思えた。ちなみに、私はスマートフォンのカメラ機能で充分日々を賄える。


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