恋の証
社内のとは別に、とっておきのお店で越野さんとふたりきりの送別会をした。
待ち合わせ場所に現れた越野さんは、いつもの鞄とは別に、ファイルの入った別の手提げを持っている。それは、私が欲しいと頼んだものだった。


食事も終わり、やっぱりあげるのは嫌だと渋る越野さんを宥め、ようやく件のファイルを手にする。これを貰って、恋は思い出として共に胸の奥深くに抱き、越野さんのこれからのご活躍を遠くから祈るはずだった私は、


「っ」


ファイルの中身を確認した途端に涙してしまった。


「この写真を見せて、仕事を任せてもらえた」


ファイルの中身は、越野さんが私を撮った写真たち。
その多くは、最初に背筋を誉めてくれた後ろ姿。
百枚を越える中にある、少ない数の私の顔を写したそれはとてもいい笑顔で。
私が、越野さんを好きだという気持ちが恥ずかしいくらいに溢れていた。


「――おめでとう」


「俺の、相手に対するいい愛情が、最上級に写し出されたって。それは、以降他の被写体にも影響した」


言葉が出てこない。


ここで終わらせて、あとはひとりで想うだけだった。


「写真の中の成田さんの表情に、俺はどうしようもない気持ちになる」


それは、最後で構わないくらいの。


「期待して、手を伸ばしたくて、怖くて……」


私と同じ臆病だった越野さんの気持ちは、とっくに恋を越えているという。


「愛しています」


愛しい人を、抱きしめない選択なんてできなかった。






――END――
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