小さな王と美しき女神
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「はい、これで終わり!!!お疲れ様!!」

ふうっ やっと終わったー!!

此処で働き始めて早三年。そろそろ慣れてきた頃かと思っていたが、未だにこの忙しさにはなれそうにない。

全身疲労で凝り固まった肩を回していると、
「マドリード!!カトリーヌ様がお呼びよ!」

「はーい!今行くー!!」

急いで衣服についた砂埃を払って、軽く身支度を整えてから、扉を叩いた。

コンコン

「どうぞ入って。」

此処に入るのは、もう毎日になるけど、それでもまだ緊張する。

キイッ

アンティークな焦げ茶色の扉を開ける。
そこにいたのは、若々しく、美しいカトリーヌ様だった。お子様を持たれているとは思えないほどのしわ一つない美貌に、絵に描いた様な八面玲瓏なお姿。背中はピシッと伸びていて、それがより一層優美さを掻き立てる。

誰がどうみても、美麗で上品と言うだろう。

その凛凛しいお姿や顔つきに、益々緊張が高まる。だが、私が入ってきた途端、目付きが柔らかくなり、口元には微かに笑みがとってみれた。

「マドリード、御免なさいね、呼び出して。」

「そんな、滅相もないことです。」

「さあ、早くこちらにおいで。」

そう言って、カトリーヌ様が指差した所はカトリーヌ様のすぐ隣。そんな近くに行くなんて畏れ多い。

「…っ、畏れ多いことです。」

首を横に振り続けていると、
「マドリード、私の言うことが聞けないの!?」
と、強い口調で言われ、
「申し訳ありません。」
とお側に寄るしかなかった。

おずおずと近寄ると、輝かしい宝石のついた櫛を手に取り、私の髪をときはじめた。

すぐさま拒否の言葉を口にしようとすると、
「いいのよ。私はね、女の子が欲しかったのよ。だから、こうするのは、私の為だと思って頂戴。」

「ふふっ。昔から綺麗な服を着せたり、髪をといたりしてあげるのが夢だったのよね。」
と、少し目を伏せ、嬉しそうなカトリーヌ様。

手つきは優しく丁寧で、気持ち良いと感じていると、「マドリードは、眼鏡をとらないの?美人なのにもったいない。髪もほどきなさい。きっと可愛くなるわ。」

「いえいえ。このままで大丈夫です。それに、この眼鏡がないと、何も見えないんです。」

カトリーヌ様が言いたかったのは、この無駄に分厚い丸眼鏡のことだろう。私は生まれつき視力が悪いわけではなく、こんなに分厚い物をつける必要はないのだが、これを身につけていると安心するのだ。

「そう。残念。今日はもう早く寝なさい。」

「はい。また明日伺います。」

そうして、今日もまた幕が閉じた。



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