『続・7年目の本気~岐路』

「あの……」

「ん? どうした?」

「皆さんと一緒には行かないんですか?」

「ん。もう少し和巴と2人きりでいたかった」


 まだ掛けたままだった眼鏡を外し胸ポケットへ
 しまって、人気のない角へ私を導き。
 私の方へ向き直れば自然と”壁ドン”みたいな
 格好に。
 
 
「き、木村さん……」 

「食事が終わってから俺との時間、作ってくれる?」

「……」

「返事なしは、オッケーってとらえていいのかな」

「あ、あの……どうして、わたしなの?」

「俺ってつくづく厄介な奴でね、惚れた女の身持ちが
 硬ければ硬いほど追い詰めたくなる性分らしい」

「ほんと厄介ですね」


 正面玄関の自動ドアが開いたらしく、
 微かに外からの冷気が吹き込んできた。
 
 コツ コツ コツ ――――
 
 幾つかの靴音がエレベーターの方へ近づいている。
 
 (マズい。こんな所を見られたら……)
 
 そう。
 今はまだ死角になってるが、来訪者達がもっと
 近づけば視界に入ってしまう。

 どきどきしてると、木村さんは私の手を引き、
 奥の男子トイレへ促し、個室の中へ入った。
 
 これでひと目にはつかなくなったが、
 違う意味でドキドキが止められない。
 
 
「あ、あの ――」


 喋りかけた私の唇へ指をあて ”静かに”
 という無言の指示。
 
 
「……」


 シーンと静まり返ったフロアーに響く靴音。
 
 やがてそれはエレベーターへ消えると思いきや、
 手前で二手に分かれ、ひとつの靴音がこのトイレの
 中へ入って来た。
 
 私のドキドキは今や最高潮に。
 
 
 (あぁ、神さま、どうか何事もなく……)
 
 
 木村さんが”大丈夫”というよう、
 背中にあてた手で何度も何度も撫でてくれた。
 
 
 (やだ ―― こんな事されたらあなたの事……)


「……メシなんかどうでもよくなりそだ」

「え……っ」

「とりあえず2人きりになれるまでの間に合わせな」


 顔を背ける間もなく。
 木村さんに口付けられた。
   
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