『続・7年目の本気~岐路』
約2時間後 ――
 
 大阪支社の面々との食事会を終えた和巴が
 木村に連れて行かれたのは、
 5年先まで予約が一杯だという
 創作イタリアンの人気店【フィレンツェ】
 

 
『―― こら、トシ。来るならたまにはちゃんと
 予約取れよな』
 
 
 と、和巴らのテーブル横へ立って、渋顔の
 この男、名を木村 勇人(きむら はやと)といい、
 年子の実弟で【フィレンツェ】のオーナーシェフだ。
 
 
「硬いこと言うなって。お前と俺の仲だろ~」


 木村とは渋顔だった勇人も和巴には優しい。
 
 
「やぁ、久しぶりだね」

「ほんと。4年ぶり?」

「今日は和ちゃんのために腕を振るうから
 うーんとお腹いっぱい食べて行ってね」
 
「えぇ、どうもありがとう」


 勇人は周囲のゲスト達へも気さくに挨拶しながら
 厨房へ下がって行った。    

 勇人を見送り自然と店内へ向いた視線がそのまま
 出入り口の方へ向かい、今、ウェイターに案内され
 テーブルへ向かうひと組のカップルへ注がれる。


「う、そ……!」

「ん? どうかしたのか?」

 
 そのカップルはかなり大人びたお洒落をした真守と。
 女性の方はサングラスで目元を隠してはいるが、
 よく見ていればわかる。
 匡煌の婚約者・神宮寺 藍子だった。
 
 2人は仲睦まじ気に視線を絡ませ、
 和巴には気づきもしないで衝立で仕切られた
 テーブルへ案内された。
 
 
「……和巴?」

「あ、ごめんなさい。今ね、あっちの席に案内されたの
 甥っ子なの」
 
「えっ ―― だって女性の方は確か……」

「木村さんにはどうゆう風に見えた?」

「あ? ん~……まぁ、普通の友達同士にゃ
 見えんかったな」  
  

 そうだ。
 普通の友達で、
 あんなにも熱い視線で見つめ合ったり、
 ひと目をはばかる事なく腕を組んでは歩かない。

 (最近マモのやつ、俺にもやっと春が来たって
  妙に浮かれてたけど……こうゆう事だったの?)
  
  

 やがて食事と軽い晩酌を終えた和巴・木村組は
 テーブルで会計を済ませると、出入り口へ向かう。
 
 真守・藍子組が座った特別席はマジックミラー製の
 衝立で仕切られているので、一般席から中の様子は
 伺えないが当然中から外は見る事ができる。
 
 だから、藍子と楽しいひと時を過ごしている真守が
 藍子の肩越しに和巴の姿を認め、思わず固まった。
 
 
「あら、どうかしたの? 真守くん」

「あ? い、いや、何でもない……何でもないよ」


 心の中でも”何でもない”を繰り返す。
 
 でも、外からは見えないハズのこちらを
 まるで見えてるみたいに視線を投げかけていった
 和巴の事が気になって。
 それから先の会話は全く頭に残ってなかった。   

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