『続・7年目の本気~岐路』
和巴の決心
まるで当たり前の動作みたいに
さり気なく腰へ手が回され、
心臓のあたりを鷲掴みされた感覚。
「次に行く所は和巴に選択権やる」
「え……?」
「店を変えて飲み直すも良し・宿舎へ直帰するも良し・
ホテルでオトナの時間を過ごすも良し」
(オトナのじかん……)
途端、頭の中に広がるピンク色の妄想。
あーもうっ!
ダメダメ。相手は彼女持ちなんだから。
それに、東京と大阪じゃ滅多に会えないし、
元々私なんて相手にされてないんだから……って、
何考え始めてるのよ、と自分に言い聞かせるけど、
時すでに遅し。
タクシー乗り場がある大通りに回る間の僅かな時間。
木村さんの横顔がキラキラして見える。
少しだけ皮肉っぽく微笑みをたたえたその表情すら、
ドキドキさせる。
いつもは全然気にならないラブホのネオンが
嫌に眩しく映る ――。
そして、意識せずそちらに目が行ってしまう。
「……木村さんは、どうしたい?」
「おいおい。今の俺にそんなこと決めさせたら、
明日、まともに仕事出来なくなるかも知れないぞ」
「!! それ、どうゆう意味よ」
「だから……俺もそろそろ限界が近いって事だ。
そのくらい察しろよ」
2人、どちらからともなく、
左へ行けば大通りのタクシー乗り場・
右へ行けばネオン瞬く色街への分岐点で
立ち止まった。
私は真っ暗な夜空を仰ぐよう上を向き、
また元に戻って、木村さんの手を握り
右へ歩を進めた。
私がいつまでもぐずぐず終わった恋を引きずって
いれば、せっかくこんな私に好意を寄せてくれた
人をも傷つけてしまう。
匡煌さんの事、
完全に忘れるにはまだ時間が必要だけど。
木村さんになら、今の自分を全て曝け出しても
いいと思った。