リングサイドブルー
千晃はPCの電源を落としてさっさと席を立った。釣り用具のショッピングサイトに夢中になっていた隣の席の男が、モニターから顔を上げ、背もたれにぐいと寄りかかった。

「森住、ちょっといい」
「なんすか」

 これまで散々暇にさせておきながら、帰宅時間になって呼び止められるのも、いつものことだった。何かのきっかけにやるべきことを思い出したというだけの話なのだろう、相手に悪気はないから性質が悪い。

「とっくに終わってますよ。メンテナンスの報告資料のことでしょう。保守班に回しました」千晃は話を聞く前から、ぶっきらぼうに言葉を投げた。

「おお、そうそう。終わってるならいいんだよ。じゃ、お疲れ」
 ひらひらと手を振って、男はまた自分の世界に戻っていった。

(クズ野郎が)
 心の中で悪態をつき、千晃は男に背を向けた。
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