さざなみの声
二人だけの時間


 それからも啓祐さんと私は二週に一度は会っていた。会うのは、あのシティホテル。部屋を取ってからルームナンバーをメールしてくれる。私がフロントを通らずに部屋に入ると啓祐さんは私を抱きしめ会えなかった時間を埋めるように甘くて激しいキスを貪るように……。二人でシャワーを浴びて

「寧々は僕の一番大切な宝物だよ」

 私の体を丁寧に洗ってくれた。濡れた体をバスタオルで包んで、ふわっと抱き上げられる。ベッドで彼は優しく激しく愛してくれた。二人だけの時間が永遠に続いて欲しいと願う。私は身も心もすべて包み込まれて、ただ腕の中で、こんなにも女だった事を思い知らされることが悦びだった。

「私の部屋に来てくれていいのに」
 と言うと

「寧々の部屋はデザインを書くアトリエでもあるから僕は踏み込めないよ。それに怖いんだ。部屋に入ったら、きっと君を抱いてしまう。そしたら帰れなくなる。ずっと一緒に居たいと思う。毎日でも寧々の部屋に行ってしまう」

「それでもいい。毎日会いたいの」

「デザイナーの夢は諦めるのか? そんなの駄目だ。僕なんかの為に将来を嘱望される君の才能を潰す訳にはいかない」

「才能なんて……。ないかもしれないのに」

「そんな事ないよ。君は、きっとやってくれる。素晴らしいデザイナーになれる。僕は信じてるよ」

「私は啓祐さんの傍に居られるだけでいいのに」

 涙が零れた。もしも啓祐さんが独身だったら……。考えても仕方ない。出会うのが遅過ぎた。

 違う。もう少し早く生まれたかった。啓祐さんが奥さまと出会う前に会いたかった。大人の女性として彼の前に……。そうしたら二人は何も煩わしい事を考えずに初めから素直に愛し合えたのだろうか。

 外で会うことは、もちろん出来ない。人目に付く場所になんて行ける訳もない。

 ただちょうど、お昼時に店舗に顔を出してくれた時
「お昼でも一緒にどう?」
 と誘ってくれて店長が忙しい時には

「寧々ちゃん行ってらっしゃい。しっかり高いもの奢ってもらうのよ」

 って出してくれる。そんな時は人前でも気にしないで堂々と一緒に居られる。仕事上のお付き合いだからという大義名分が立つ。特別な仲だということは間違っても悟られない様に。それでも明るい街中で二人で居られるのは嬉しかった。束の間の恋人気分を味わって幸せだった。
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