さざなみの声


 その頃、シュウは寧々の両親にシュウの家族を紹介していた。

「遠くからおいでいただいて申し訳ありません」
 とシュウの父親。

「いいえ。この度は娘の寧々にいろいろご配慮をありがとうございました」
 と寧々の父。

「とんでもない。寧々さんのような良いお嬢さんを息子の嫁にいただいて本当に喜んでおります」

「いいえ。我が儘な娘をシュウさんにもらっていただいて私共の方こそ嬉しく思っております」

 二人の母親は初対面とは思えないくらいにすっかり打ち解けているようだった。



「はい。出来たわよ、お支度。寧々、綺麗よ。シュウ驚くわよ」と麗子。

 鏡の中の私……。本当に……私? 
 眩しいほど上品な光沢を持った生地の純白のシンプルなデザインのドレス。まさか私が着ることになっていたなんて……。

 大きな姿見を見ていたら後ろにシュウが写った。知らない間に、みゆきが呼んで来てくれたみたいだった。

「しばらく二人だけにしてあげる。でも五分だけよ」
 とみゆきと麗子は笑顔でドアを閉めた。

「寧々、すごく綺麗だよ。夢みたいだ。寧々の花嫁姿見られるなんて」

「このドレス、私の最後の仕事なの。副社長が私のサイズで作るようにと……」

「何から何まで感謝しなければいけないな。きょうここを貸切にしてくれて麗子やみゆきを呼んでくれて。さっきから寧々の会社の人たちもたくさん来てくれてるよ」

「えっ? そうなの?」

「寧々のウェディングドレス姿を見たいって来てくれてるんだよ」

「シュウ。私、すごく幸せよね。恵まれ過ぎてて怖いくらい」

「寧々が自分の信じた道を頑張って歩いて来たからだと思うよ。さぁ、そろそろ行こうか。皆さん寧々を待ってるよ」

 シュウが出した腕に、そっと手を添えてドアを開けて部屋を出ると、みゆきが素敵なブーケを渡してくれた。ドレスと同じ純白の胡蝶蘭のブーケ。

 会場に入ると、みんなに拍手で迎えられた。バックには結婚行進曲が流れている。本当に、きょうがシュウと私の結婚式なんだと思えた。



 テーブルにはシュウのご両親、お兄さんご夫妻、私の父と母、会社の先輩、同僚、デザイナー仲間たち。みゆきと麗子も席に着いた。そして、この方との出会いが私を輝かせてくれた副社長と社長。

 シュウが挨拶した。

「皆さん、きょうは本当にありがとうございます。まさか、こんな風に祝福していただけるとは想ってもいませんでした。僕たちは一月二十三日に入籍しました。本来であれば結婚式、披露宴に、ご招待するべきでしたのに祝っていただいて、感謝の気持ちでいっぱいです。ここでおいでくださった皆さんに僕たち二人の結婚の証人になっていただきたいと思います。寧々、左手出して」

 私は言われるままに左手をそっと差し出した。その薬指に美しく煌めくエンゲージリングとマリッジリング。そしてシュウの指に私がお揃いのマリッジリングをはめた。おめでとうの声と拍手が、とても温かくて幸せで思わず涙が零れた。
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