さざなみの声
2
「ありがとう。そう言ってくれると思っていたよ。それから、ここの後任の店長なんだが……。任せられそうな人がいないだろうか。今、ここにはバイトの子が多いんだろうね」
「そうですね。学生のバイトがほとんどですから……。寧々ちゃんみたいな子なら……」
つい名前を出してしまったことを少し後悔していた。でも良い機会かもしれないと店長は考えた。
「寧々ちゃん、ここを辞めて誰でも知っている大手のフォーマルウエアの会社でデザイナーとして仕事をしていたんですよ」
「そうか。夢は叶ったんだね」
「えぇ、そうです。その後、結婚した商社マンのご主人と海外勤務になって……」
「そうだったのか。ありがとう。教えてくれて感謝してるよ」
「いいえ。とても幸せそうですよ。寧々ちゃん」
「うん。良かったよ」
津島部長の表情は安心しているのが手に取るように分かった。
伝えて良かったんだと店長は胸を撫で下ろした。
二人の間柄がどういうものだったのか詳しくは知らない。寧々ちゃんにも聴かなかった。
でも真剣に心を通わせ合っていたのは間違いないと思っていた。これ以上は言わない。言えない。それぞれの幸せのためにも……。
「店長、きょうは飲みに行くか? ちょっと気の早い祝杯だ」
「はい。お付き合いしますよ」
この夜のお酒は部長にとっても、店長にとっても嬉しいお酒だったことは言うまでもない。