さざなみの声
シンガポール
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シンガポールのレストラン。美しい夜景を見下ろす窓際の席。向かい合って座る華やかな幸せオーラを放つ絵になる二人は口当たりの良い冷えた白ワインで乾杯していた。
赴任して二年近く。この国の生活にも街並みにも、すっかり慣れ、現地の友人も二人の人柄からか、いつの間にかたくさん増えてきている。
同じマンションに住む日本の商社のご夫妻と仲良くなり、寧々がデザイナーだと知ってドレスを作りたいから教えて欲しいと頼まれ、週に一度、部屋に招いて教えていたところ、現地の親しくなった友人からも頼まれて、寧々のマンションは洋裁教室のようになっていた。
ドレス作りだけでなく、お茶やお菓子を持ち寄って、楽しい時間を過ごしながら、英会話教室にもなっている。英語はあまり得意ではなかった寧々も習うより慣れろと言うように日常生活には、ほとんど支障のない程になって来ていた。
きょうは二人にとって二度目の結婚記念日。三十歳になった寧々は、その立ち居振る舞いや笑顔からも今がとても充実して幸せだと見ているだけで伝わってくる程だった。
お気に入りのバックが大きく開いたデザインのグリーンのドレスで惜し気もなく見せた背中は透き通る程のキメ細かな白い肌が輝いている。
シュウも、こちらでの仕事にも慣れ、優秀なビジネスマンの雰囲気が身に付いていた。
「そのドレス、いつ作ったの? 綺麗な色だね。とても良く似合うよ」
「そう? ありがとう。日本でも探したんだけど、なかなか思うような生地がなくて。こっちに来てから街で買い物してて偶然見付けたの。こういうグリーンのドレスが欲しかったの」
シュウは覚えているのかしら? 二人だけで初めて旅行をした時に、泊まったホテルの窓から見えていた景色を。あの緑のグラデーションをドレスにしたかったの。
「寧々は、やっぱり最高だ。愛してるよ」
「シュウ、恥ずかしいでしょう。人が聞いてる……」
「大丈夫だよ。このレストランは観光客はほとんど来ない。日本語の分かる人は、まず居ないから、何度でも言ってあげるよ」
「もう、シュウったら……」
シュウの笑顔を幸せそうに見詰める寧々は気付いていなかった。
そんな二人の様子を微笑ましく見ている優しい視線に……。