さざなみの声
元彼
1
それから何日か経って店でのバイト中。入り口に二人連れのお客様が見えて、いらっしゃいませと言おうとして私は固まってしまった。
綺麗な女性のとなりに居るのはシュウ? まさか……。何年ぶり? 二年ぶり?
どうしよう。店長は遅いお昼に出かけてる。別のバイトの子は奥で在庫のチェックをしてる。今、店に居るのは私だけ……。出来るだけ自然にと思いながらも、たぶん顔は引き攣っていたと思う。
「いらっしゃいませ」
シュウが声で私に気が付いたようだった。私はシュウとは目を合わせないように
「何かございましたら、いつでも声をおかけください」
そう言って二人には近付かずに居た。出来ればこのままそっと出て行って欲しい。売り上げなんてどうでもいいから。店員としては、とんでもない事を願いながらレジの傍で何をするでもなく立って居た。
しばらくすると女性がワンピースを持って
「これ試着してみたいんですけど」
とこちらに歩いて来られた。
「はい。どうぞ試着室はこちらです」
案内してカーテンを閉めた。
少しの時間が経ってワンピースを着たお客様が出て来られて
「サイズは、ちょうど良いようですね」
と言うと、そのままシュウの方に歩いて行った。
「どうかな?」
「うん。気に入っているのならいいんじゃないか?」
「そう? じゃあこれにする」
試着室に戻って着替えるとワンピースを持ってレジの前へ。バッグから財布を出すのかと思いきやシュウが財布からカードを出して
「これで、お願いします」
「はい。かしこまりました」
カードをレジに通して、お支払い明細を渡す。ワンピースを紙袋に入れて彼女に渡す。
「ありがとうございました」
またのご利用をお待ちしておりますとは言えなかった。あんな高いワンピースを買ってあげる仲なんだ。もう私には関係のないことだけど。