さざなみの声


 車で走り出すのを見送って振り返ると啓祐さんと目が合った。今夜は会う約束だった。私は早番なので六時には終わる。啓祐さんも日曜日のゴルフで夕方には帰れると言っていた。しかも接待ゴルフではなく気の合う仲間とのゴルフだから時間も融通が利く。少しでも早く帰って来るよと。

 きょうは一緒に食事もしようと言われていた。静かで他の客に邪魔されない割烹料理の店があると。

 奥さまへのプレゼントも店長のお薦めのスーツに決まったようだ。啓祐さんは支払いを済ませて店長に

「ありがとう。じゃあ」
 と帰って行った。約束の場所に車を停めて待っていてくれるはず。六時になって

「寧々ちゃん、お疲れさま」

「はい。お疲れさまでした。お先に失礼します」

 着替えて店を出た。いつもと逆方向に歩き出す。啓祐さんの車を見付けて助手席に乗り込んだ。

「さっきは驚いた。お店に来るなんて聞いてなかったから」

「早く寧々の顔が見たかった。お陰で散財したけどな」

「奥さまには、ちゃんとプレゼントしないと」

「今度寧々にも何かプレゼントするよ」

「ううん要らない。私が欲しいのは啓祐さんとの時間だけだから」

「寧々、そんなこと言うとホテルに直行だぞ」
 って笑った。

「それでもいいって言ったら?」

「寧々……」

「嘘よ。お腹空いてるの」

 って言ったら、啓祐さんに笑われた。

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