さざなみの声
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早速その夜からデザインを描き始めた。漠然とデザイン画を描き続けていた時より目的がはっきりした今、なんだかデザインを描くのも考えるのも楽しくなった。
いくつか描き上がった頃には空が明るくなり始めていた。こんなに集中して描いたのは久しぶりかもしれない。デザイナーという職業に、こだわり過ぎていた。そう思えたら気持ちもスーッと楽になった。
次のお休みに生地を見に行こう。洋服作りが、こんなに楽しいと思えたのも中学の頃に初めて夏のワンピースを作って褒めてもらって以来かもしれない。きっと私は一番大切な事を忘れていたんだ。
次の定休日。久しぶりに生地問屋さんに出掛けた。お店に入ると独特の生地の匂いが懐かしい。フォーマル用になる少し光沢のある上品な生地を探す。色は白以外。白は花嫁さんのお色。結婚式にはタブーなゲストカラー。いろいろ見て回ってデザインした物に合う生地を数点購入した。タフタとシフォン、肩に掛けるストール用のオーガンジーも買った。裏地や接着芯も糸やファスナーなど必要な物も忘れずに。
十月までには、まだ十分日にちはある。お休みや帰ってからの時間に作れば間に合う。
五月が終わって梅雨時も通り過ぎて夏が終わる頃には二着出来上がっていた。洋服を作る事が、こんなに楽しかったことを改めて知ることが出来た。みゆきのお陰。
その間も啓祐とは、もちろん会っていた。二人で過ごす時間には甘えて我が儘も言えた。啓祐の腕の中の心地好さは他では得られない。私が唯一、女で居られる場所だから……。
夏休みの間は会える回数は減っていたけれど。あえて理由は聞かない。聞かなくても分かってる。そんな時に面倒な女だと思われるのが嫌だった。不倫には不倫のルールがあると考えていたから。秋になれば、また会える時間も増えると信じていた。