さざなみの声
3
それから、あっと言う間に大晦日が来て
「お疲れさま。明日は一日ゆっくり休んでね。また、あさってから忙しくなるから」
と店長。
「はい。お疲れさまでした。じゃあ失礼します。店長、良いお年を」
「寧々ちゃんも良いお年を」
良い年か。私にとって良い年なんて来るのかな? 大晦日だというのにコンビニで買い物して簡単に晩ご飯を済ます。おせちもお餅も買ってない。
部屋に散らかったデザイン画を片付けながら年が明けた。こんなことをしながら、どんどん歳を取って行きそうで怖くなる。
あけましておめでとう……私。
元旦はいつもよりゆっくり眠って一年分の疲れを癒した。明日はもうバイトが待っている。お正月気分には浸れなかった。
二日、仕事始め。ほとんどの人は、お正月休みで、のんびりしているんだろう。本社は五日までお休みだと言っていた。お嬢さんと楽しく過ごしているんだろうか。奥さまの手作りのおせちや、お雑煮を食べて。それとも旅行でもしてるのかな? お正月の予定は聞かなかった。聞いても寂しくなるだけだから。
そして六日。世間のお正月も終わり、だいたいの会社も、もう始まっているんだろう。新年のご挨拶回りや忙しい時期が過ぎたらメールをくれると言っていた。
私はただ待つだけ。いつまで待つんだろうなんて考えない。待っても待ってもメールも来なくなったら、きっとそれは別れの時……。
このままずっと会わなければ忘れることだって出来るのかもしれない。顔も見ないで、どうしているのかなんて噂も聞かなくなったら。
それには、お店も辞めなくてはいけない。ここに居たら会わない訳にはいかないから。私が居なくなれば啓祐さんだってきっと忘れてくれる。私との思い出だけを心の中にしまっておいてくれるだろうか。
啓祐さんが私のために家庭を壊すことなんて有り得ない。私だって、そんなことを望んではいないのだから。
このまま私がどこかに消えてしまったら……。
名古屋に帰ろうか。今まで頭の片隅にもなかった選択。
そんなことまで考えておいて啓祐さんからメールが来れば会いに行ってしまう。ドアを開けて笑顔で迎えてくれる啓祐に、やっぱりこんなにも会いたかったんだと気付く。