さざなみの声
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「ところで、きょうは別の話があったんだよ」
「何でしょうか?」
「春の人事で君を販売促進部長にという話が出ているんだが」
「えっ? 私がですか?」
「あぁ。しかも私が根回しした訳じゃないんだ。常務から出た話らしい。副社長も了解してくれているそうだよ」
「私のような若輩者でいいんでしょうか? 部長などという器では。勿体ないお話なんですが」
「会議で決まったら断る訳にはいかないよ。そのために身辺整理もして置いて欲しいと思ってね。まぁ君に限って大丈夫だとは思うんだが。私と違って、そんな心配は要らないだろうからね」
「あぁ、はい」
「もしかしたら素行調査もあるかもしれないんでね」
「そうですか」
「決まったら来月にも辞令が出ると思うから。今後も会社のために頑張ってくれるね」
「はい。勿論です」
それからは酒の味も料理の味も何だかよく分からなかった。
僕が部長? いつかはと思っていたけれど、まさかこんなに早く。どうすればいいんだ。どうすれば……。
寧々の顔が浮かんだ。哀しそうな顔が。寧々……。いや寧々とは別れられない。出来る事なら寧々を選びたい。それくらい愛している。
部長になって、その権限でデザイナーとして寧々を呼び寄せる事は出来ないだろうか。
義父の前で平静を装って頭の中はパニックを起こしそうだった。