さざなみの声
スレチガウキモチ
1
あれから一ヶ月が経っていた。もう二月半ば。
私は啓祐と別れようと密かに決めていた。一ヶ月会えなくても、ちゃんと生きて来られた。この一ヶ月が、二ヶ月、三ヶ月、半年、一年……。そうすれば、きっと忘れられる。
携帯も、なるべく見ないようにしていた。みゆきは仕事と家事で忙しいだろうし、私に構っている時間はないだろう。
バイトをこなしアパートに帰るだけの日々。デザイン画も描いたり描かなかったり。ただ生きているだけのような毎日だったけど人生なんて、そんなもんと思えば、どうって事もない。
二月も終わる頃。本社の販売促進課の確か係長と呼ばれていた、たまに啓祐に付いて来ていた人物が現れた。
「今回の移動で販売促進課長の辞令を受けました。今後ともよろしくお願い致します」
と名刺を差し出した。受け取った店長が
「津島課長は?」と聞くと
「津島は部長に昇進しました。今は忙しくて、また近々顔を見せられると思います」
「そうなの。津島部長、良い響きよね。ねぇ寧々ちゃん」
とても嬉しそうに店長は言った。私はそれで忙しかったのかと納得した。人事というのは微妙なところもあったりするから。