さざなみの声
3
アパートに帰って有り合わせの材料で、お雑炊を作って食べた。いつもの風邪のひき始めに効く薬も飲んで少し熱めのお風呂で、しっかり温まった。お風呂から上がってミネラルウォーターを飲んでいたら携帯が鳴った。啓祐からのメール。
『もうアパートに着いたか? 電話してもいいかな?』
えっ? 啓祐、帰ったんじゃないの?
『もう着いてます。』
まもなく着信の音……。
「はい」
「大丈夫か?」
啓祐の優しい声。
「薬も飲んだし熱めのお風呂に入って来たばかりです」
「ちゃんと何か着て湯冷めしないようにしてるのか?」
「大丈夫です。温かくしてますから」
「寧々、怒ってる?」
「どうしてですか?」
「君を二ヶ月も放って置いて……」
「十年放って置かれても文句の言える立場じゃないですから。それより電話なんてしてて大丈夫なんですか?」
「今夜はこのままホテルに泊まることにしたよ」
ホテルの部屋に居るの? 今夜は泊まるって……。今まで一度だって一緒に泊まってくれた事も無かったのに。もしも今からホテルに行ったら朝まで一緒に居られるの? すぐにでも着替えて飛び出したい気持ちと戦っていた。最後にもう一度だけ。そんな想いを呑み込んで……。