さざなみの声
5
今はデザインの事だけを考えよう。集中していれば余計な事も考えないで済む。本当にこれが最後のチャンスだから。もし今回もダメなら名古屋に帰ろう。デザイナーの夢も潔く諦める。
啓祐とも、もう二度と会わない。啓祐への気持ちも思い出も一つずつ忘れよう。啓祐が居なくても生きていけるんだから。生きていかなきゃいけないんだから……。
学生の頃にも、こんなに描いた事がなかったというくらい私はデザインを描き続けた。何もかも忘れて集中していた。啓祐からは時々メールが来たけれど……。集中出来るように会おうなどとは言って来なくなった。
あっと言う間にカレンダーは五月になっていた。今月いっぱいで締め切り。
シュウがまた今年も母の日のプレゼントを買いに来てくれている。店長は私がデザインコンテストに応募する事を話した。
シュウは
「頑張れ。応援してるから」と言ってくれた。
デザインコンテストの応募締め切りまで、あと十日。今まで描いた事も無いくらいの枚数を描き上げていた。
その中からベストな五枚を選んでファイルに入れた。添付する書類も既に準備出来ている。後は封をして投函するばかりになっていた。
ところがデザインに集中していた時には考えもしなかった事が今更のように頭に浮かんで消えなくなってしまっていた。
もしも……。もしも万が一、私が選ばれて本社にデザイナーとして配属されたら、それは毎日啓祐と顔を合わせるという事。
啓祐の居る会社でデザイナーとしてちゃんとした仕事が、はたして出来るのか? 啓祐への気持ちを消し去って普通に上司として向き合えるのか? 考えれば考えるほど自信が無くなっていく。