さざなみの声
2
外が明るくなって目覚めた時、まだ五時を過ぎたばかり。
メイクも落とさずそのまま眠ってしまった重い体を引き摺ってシャワーを浴びた。何もかもすべてをシトラスの甘い香りの泡で洗い流して鏡の前。
自分でも驚くほどの酷い顔。これで店に立てるの? 瞼は腫れ、肌はカサカサ、造り笑顔すら出来ない暗い表情……。
バイトの時間までに保冷剤や目薬で何とかならないかと試みたけれど、七時を過ぎて私は諦めた。店長に電話を入れる。
「はい。寧々ちゃん? おはよう。早いのね」
「おはようございます。あのう急で申し訳ないんですけど、きょうは休ませてもらえないでしょうか?」
「ちょっと待ってね。え~っとね。あぁ大丈夫よ。きょうは他に二人出てくれるし、この前面接した新人も来るから何とかなるわ。それより寧々ちゃん大丈夫なの? 体調悪くしたの?」
「あっ、いえ、出来たら行きたい所があって……」
「そうなの。明日は定休日だし体をしっかり休めて、あさっては元気な顔を見せてくれるのよね?」
「はい。大丈夫です。心配しないでください。ちゃんと行きますから」
「分かった。じゃあ、あさって待ってるわね」
行きたい所? 咄嗟に出た言葉に自分でも驚いた。明日は定休日。行くなら、きょうしかない。浮腫んだ顔の事なんて、すっかり忘れて、それから急いで支度をした。
電車に揺られていた。通勤ラッシュとは逆方向へ向かっている。
海に行こうと思い立った。啓祐と行くはずだった海。クリスマスプレゼント代わりに一緒に行くと約束してくれていた。
たまたま店にあった雑誌に可愛いペンションが紹介されていて、いつか行ければと電話番号と住所を携帯のメモリに入れてあった。
朝すぐに電話して宿泊予約をした。ペンションのご夫妻は、とても温かな雰囲気の方で安心して荷物を案内された部屋に入れて、早速海へと出掛けた。