さざなみの声


 それからシュウとは、ほとんど毎週会うようになった。傍に居ることが自然なんだと教えてくれているようにも思えた。

「寧々、八月の休みに旅行しないか?」

「旅行? どこへ?」

「どこでもいいよ。寧々の行きたいところなら」

「じゃあね、涼しい高原がいいな」

「涼しい高原ね。分かった。探しておくよ」



 そして八月。シュウは高原のホテルを二泊予約してくれていた。二人だけで旅行。考えたら初めてだった。

 学生の頃は、みゆきや麗子、シュウの友人とグループで出掛けた。部屋はもちろん男女別々。
 まさか今更二部屋予約なんて考えられない。どうしよう。

 シュウは、あれから、五月のドライブから私をそっと抱きしめることはあっても、それ以上のことは何もしない。私がまだ啓祐を忘れていないんじゃないかと気を遣ってくれている。別れて一年と少し。もう思い出すこともない。 

 ただ自信はなかった。二年も啓祐に愛されて……。私の体がシュウと付き合っていた頃と違ってしまっていたら。それが不安だった。シュウの気持ちに応えたい。昔と変わらず真っ直ぐに愛してくれている彼に。

 私はもう既にシュウを愛し始めていた。元々嫌いで別れた訳じゃない。気持ちが擦れ違って、いろんな事情が重なって、お互い若かったから、ちょっぴり意地も張って……。今の私たちなら乗り越えられたかもしれなかった。

 旅行当日、迎えに来てくれたシュウの車に乗り込んだ。二泊分の荷物と一緒に。高速を乗り継ぎ途中サービスエリアで休憩もしながらリサーチしてくれた観光地にも寄って。ガラス工芸館、美術館、童話館、わさび農場、ラベンダーの里でソフトクリームも食べた。

 そして予約したホテルにチェックインして部屋に入った。そこはダブルベッドのツインルームだった。
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