さざなみの声


 課長は既にスーツに着替えていた。

「さっぱりしたかな? 僕は帰るから、ゆっくり眠るんだよ。じゃあ」

 そう言いながら椅子から立ち上がって歩き始めた津島課長に私は思わず背中から抱き付いていた。

「帰らないで。一人にしないで……」

「ほら、子供みたいなこと言ってないで……」

 振り向いた津島課長の首に腕を回して私からキスしていた。

「寧々さん、どうなっても知らないよ。僕は構わない。でも君は……」

「どうなってもいいの。課長が好きだから……」

 課長は体の芯まで蕩けるようなキスをして私を抱き上げた。そっと私をベッドに降ろすと、せっかく身に着けた全ての物を脱ぎ捨てた。

 彼は、あらゆる意味で私なんかよりずっと大人だった。逞しい腕の広い熱い胸の中に自ら追い込まれた私は、ただ課長の意のままに操られた人形のようだった。

 私は、ただ寂しかったんだと課長の腕の中で気付いた。面接の時、素敵な人だと思ったのは間違いなかったけれど……。

 さざなみの音が聞こえたような気がした。寄せては返すさざなみ。それは私の中から思わず零れてしまっていた偽りのない声だった。
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