さざなみの声
3
「夕食の前にシャワー浴びようかな。寧々はどうする?」
「食事の後でいい。メイク落ちちゃうし」
「そっか。じゃあ先に入ってくるよ」
シュウがシャワーを浴びている間、窓からの景色を眺めていた。グリーンにもいろんな色があるんだ。緑がどこまでも続いている。今度グリーンのグラデーションのドレスでも作ってみようか。そんなことを考えていたら……。
「あぁ、気持ち良かった」
バスタオルでガシガシ髪を拭きながらシュウがお風呂から出てきた。
「ドライヤーは?」
「夏は、この方が気持ちいいんだ」
「昔と変わってないのね」思わず笑った。
「さぁ、食事に行くよ」
ホテルには和洋中どんな物でも食べられるよう、お店が揃っている。お昼はパスタだったから和食にしようという事になった。暖簾をくぐってテーブル席に着いた。お奨めの和定食に天ぷらの盛り合わせを頼んでビールも注文した。私はコップ一杯で充分。シュウに、ほとんど飲んでもらった。鱒のお刺身や鮎の焼いたものなどを美味しくいただいた。
食事を済ませて部屋に戻るエレベーターの中で、ちょっと飲み過ぎって感じの中年男性二人に遭遇した。シュウは私の腕を引いて後ろの角に立たせてくれた。お二人は、ちょっと声は大き目だったけれど楽しいお酒を飲んだようだった。そして「すみません」と頭を下げて先にエレベーターを降りて行った。何だか可笑しくてシュウと顔を見合わせて笑ってしまった。九階に着いて廊下を少し歩いて部屋に入る。
「あぁ美味かった。もう食べられないよ」
「うん。本当に美味しかったね。でもシュウって天ぷら好きだよね」
「そういえば、あの時も天重だったな」って笑ってる。
「うん? あの時って、私が誘拐された時のこと?」
「誘拐じゃないだろう。ただ晩飯付き合ってもらっただけだよ」
「もう二年ちょっと前になるんだね」
「あの日、偶然会わなかったら僕たち今ここには居ないのかな」
「そういえば、あの時の彼女どうしてるの?」
「あぁ、取引先の社長の息子と結婚したよ」
「えぇ? そう。そんなに、お金が大事だったのかな?」
「さぁ、どうだろう。女心はよく分からないよ」
「私は?」
「寧々? う~ん、もしかしたら一番分からないかも」
「さてと、シャワー浴びて来よう」
シュウの笑い声が聞こえた。