さざなみの声


 シャワーを浴びて髪も乾かして美容液も付けた。真っ白なコットンレースの小さなボタンが並んだワンピース。ちょっと年増の天使って感じ。自分でツッコミ。そういえば、すっぴんの顔を見せるのは久しぶりなんだ。お風呂から出ると

「さっぱりした?」とシュウ。

「うん。やっぱり汗かいてたのよね」

 窓際に立つシュウの傍に行った。

「何か見えるの?」

「さっきまで見えたけど、もう真っ暗だね。ガラスに寧々が映ってる」

「年増の天使が? ちょっと若作りだったかなって」

「そんなことないよ。可愛いよ」

 向かい合ったシュウの胸に頬を寄せて背中にそっと腕を回した。

「シュウ……」 

「なに?」

「私、シュウのこと嫌いじゃないよ」 

「うん」

「シュウが好きだから」 

「えっ?」

「シュウ……愛してる」 

「寧々……」

「お願いがあるの……。抱いて欲しい……」 

「寧々……大丈夫か? 無理しなくても……」

「無理なんてしてない」

 私は顔を上げてシュウを見詰めた。シュウから二度目のファーストキス。それは、そっと触れる優しいキスだった。そのまま抱き上げられてベッドに降ろされた。シュウに見詰められて熱い指先が頬をそっと撫でる。

「寧々……愛してるよ」

 唇を塞がれる。シュウの熱に溶けそうだった。ワンピースのボタンをはずすシュウの手。肩をはずされ何も着けていない胸があらわになる。

「寧々……綺麗だ」

 シュウの唇が首筋から肩そして胸の頂を捉えた。思わず声が零れる……。

「シュウ……」

 シュウの素肌の熱さが私の肌に絡み付くように滑って行く。敏感な場所を適確に捉えられて甘い声が止められない。シュウが私の全てを解っていたことを今更のように思う。こんなにも愛されていたことを思い知らされる。涙が零れた。

「シュウ、愛してる」

 声になっているのかどうかも解らない。私がどこかに行ってしまいそうで怖くなる。シュウ迎えに来て……。どうにかなってしまいそうなの。頭の中なのか私の全てなのか解らない。星が煌いて散らばった。そのまま私はシュウの腕の中に抱きしめられていた。

 どれくらい経ったのか時間の感覚がつかめない。目を開けるとシュウのキスが降って来る。心配そうなシュウの顔が見えた。

「寧々、大丈夫か?」

「シュウ、私を嫌いにならなかった?」

「どうして?」

「十九歳の時の私じゃないから……」

「当たり前だろう。寧々は二十六歳の大人の女なんだから。十九歳の時と同じ訳ないだろう。そんなこと心配してたのか?」

「だって……私は……」
 シュウの視線から目を逸らした。

「十九歳の寧々も、もちろん愛してたよ。でも今、僕が愛してるのは、ここに居る二十六歳の寧々だ。前よりも、ずっと愛してる。寧々の魅力に溺れそうだよ」

「シュウ……」

 シュウの胸に顔を埋めた。思わず涙が零れた。

「寧々、愛してる。もう何があっても離さないから。寧々を傷付けるような事は二度としない。約束する」

 髪を撫でられてシュウに抱きしめられたまま眠った。

 満天の星が綺麗に光る夜だった。まるで二人を祝福するかのように……。
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