さざなみの声


 木製のワゴンに、お茶の用意をして押して来たシュウの母。凛とした美しさ上品さ、芯の強さが痛いほど感じられる。こういう女性になりたいと心から思った。その人がシュウの母親であることが誇りでさえあった。

 お茶を飲みながら話しているとシュウが
「そういえば父さんは?」

「きょうもゴルフよ。そんなに遅くはならないと思うけど。寧々さんに会うのをとても楽しみにしていたから」

「そうか」

「何か父さんに用があったの?」

「僕もそろそろゴルフでも始めようかと思って」

「あなたまでゴルフ?」

「仕事で必要になりそうだから」

「ところでシュウ、あなた海外勤務なんて可能性はないの?」

「僕は海外事業部じゃないから異動でもない限り有り得ないよ」

「そう。まぁ大変だからね。夏美さんもきっといろいろあったと思うわ。お兄ちゃんは海外勤務を希望していたから遣り甲斐はあったでしょうけど。あら、もうこんな時間。私ったら、お喋りに夢中で夕食作らないとね」

「あぁ、いいよ。母さんもたまには楽したら? 休息だって必要だと思うよ」

「じゃあ、手料理は次の機会にしてもらって出前でも取りましょうか?」

「だったら、お寿司がいいな。松寿司の上」

「そう言うと思った。電話してみるわね」
 出前の注文の電話を入れているおばさま。
「まぁ、そんなに混んでるの? 困ったわね」

「母さん、出前は無理だって?」

「あの店は日曜の夕方は混むのよ」

「僕が取りに行こうか?」

「取りに行けば作ってくださる? どれくらいで? 三十分。シュウ取りに行ってくれる? じゃあ、お願いします。上を四人前ね」

 しばらくしてシュウは、お寿司屋さんに出掛けた。
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