さざなみの声


「さてと、これでシュウは居なくなったし……」

「えっ? おばさま?」

「予定通りなのよ。寧々さんと二人だけで話したかったの。シュウは、ちゃんと言わないところがあるから。学生の頃よく来てくれたわよね。それからシュウと何かあった?」

「実は卒業前に考え方の違いから会わないようになりました。友人が話し合うべきだとチャンスを作ってくれたのですが、約束の場所にシュウは現れませんでした。そのまま二年と少し経って偶然私がバイトしている店にシュウが来て。でもその頃私には付き合っている人が居て……」

「そう。よく話してくれたわね」

「偶然出会った日に、おばさまが倒れた事を初めて聞きました。その日が友人から話し合うように言われて待ち合わせていた日だった事も」

「そうだったの。知らなかったわ。何か事情があるとは思ったのよ。優しい寧々さんが一度も病院に来ないのは不自然だったものね。でもシュウは仕事が忙しいからとか日曜は休めないとか……」

「また付き合うようになったのは今年の春くらいからなんです」

「そう。でも良かったわ。寧々さんが家にまた来てくれるようになって。シュウには寧々さんのような人じゃないとダメだと思うの」

「いえ、私なんて……」

「そんなことないわよ。シュウは昔から変なところで頑固で融通が利かない。一度言い出したら周りで何を言っても無駄なの。全く誰に似たんだか。優しいところもあるんだけど、あの頑固さで随分と損してると思うの。寧々さんにも、きっとたくさん嫌な思いをさせたんでしょう?」

「いいえ。そんなこと……」

「寧々さん今はデザイナーとしてお仕事してるのよね。夢が叶ったのね。素晴らしいことよ。人の見ていないところで相当努力したのよね。そういう意志の強さを持った寧々さんだからこそシュウの傍に居て欲しいの」

「まだ具体的に話し合ってる訳じゃないんですけど」

「いいのよ。急ぐ必要はないから。寧々さんも仕事を続けたいでしょうし。それはシュウと話し合って二人で決めることだから。ただシュウがまた我が儘なことを言うようなら私に言って頂戴ね。しっかり叱ってあげるから……あらシュウが戻ったみたいね」
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