さざなみの声
12
「素敵だったね。新しくて綺麗で。でも現実的には無理かな」
「そうだな。今ローンなんて組めないし。また何処か探そう」
「そうね。スーパー行くんだよね。今夜は何を作りたいの?」
「きょうはハンバーグ作りたいんだけど」
「ハンバーグね。了解」
まだまだ週末調理実習は続いていた。とりあえずマンションは探すつもりでいる。急ぐ訳じゃないけれど。
ウィークデーは二人とも仕事で忙しい。週末を二人で一緒に過ごして料理して週末婚のような形だけど、その距離感も二人にとっては心地好いものだった。二人で歩く道の先には結婚という二文字が確実に見える。お互い別の人との、この先の人生は考えられなかった。
いつの間にか季節は秋から冬へと移り変わって来ていた。週末の調理実習のメニューも温まる鍋が増えていた。寧々の特訓の成果かシュウの料理は、かなりの腕前になっていた。近頃は自分で ” 男の料理 ” なんて本まで買い込んで、寧々には作れない物まで作ってくれるようになっていた。
クリスマスも幸せな時間を一緒に過ごして、年が明けて寧々は久しぶりに実家に戻って一泊した。帰ってシュウの家にもお邪魔して楽しい時間を過ごし、シュウと二人で近くの温泉に一泊旅行もして来た。
そして一月もそろそろ終わろうとしていたある日。寧々は仕事を終えて会社を出ようとしていた。その時、携帯が鳴った。シュウからの着信音。珍しい。
「はい」
「寧々、今仕事中?」
「ううん。もう会社を出るところよ。どうしたの?」
「今から時間ある?」
「大丈夫よ。スーパーで買い物して帰るつもりだったから」
「じゃあ会社の前まで車で迎えに行くよ。十分で着くから」
「分かった。待ってるから」
何かあったのだろうか。考えても分からない。十分後にはシュウに会うんだから聞けばいいんだから。でも何となく胸騒ぎがするのは何故だろう。まもなく走って来るシュウの車が見えた。歩道に立って待つ私の前に停まった車に乗り込んだ。
「お待たせ。寒かっただろう。とりあえず何か食べに行こう」
「うん。シュウ、何かあったのかと思って……」
「先ずは食事だ。ちゃんと話すから」
そう言われたら余計に気になるんですけど……。
私の胸騒ぎが間違っていない事が直ぐに証明されることになるなんて……。