さざなみの声
真冬のデート
1
携帯の目覚ましで六時に起きた。まだ暗い。寒いっ。ファンヒーターを点けて顔を洗いに行く。簡単な朝食を済ませメイクをして寒くないように薄手のニットを重ね着して厚手のスカートにコートはダウン。支度は出来た。ストールを忘れずに持って。
七時前になって、ようやく明るくなって来た。冬の朝は嫌いじゃない。空気が澄み切っていて心まで凛として落ち着く。肌まで引き締まって綺麗になったような気がする。それは、あくまでも気のせいだと思うのだけれど……。
部屋の中を見渡してファンヒーターもガスも切って戸締りも良し。ブーツを履いたらカギを掛けて静かに階段を降りて外に出て待っていた。七時まで五分。シュウの車が見えた。
「おはよう。外で待ってたの? 寒かっただろう」
「ちょっとね。でも大丈夫よ。冬の朝って好きなの」
「へぇ、それは知らなかったかもしれないな。じゃあ行こうか」
シュウは車を出した。
「昨日、家に帰って海外事業部に異動になること話して来たよ」
「そう。何か言われた?」
「父さんは頑張れって。兄貴は、そうか大変だぞこれから……だって。母さんは僕のことより寧々のことを心配してた」
「私のこと?」
「うん。もしも海外勤務になったら寧々さん困るわよねって。仕事、忙しいんだろう?」
「実はね。私、新しくウェディングドレスを任されたの」
「ウェディングドレス?」
「うん。最初のお客様は副社長の姪御さんなんだけど、その結果次第でオリジナルのウェディングドレスの新しい部門が出来るかもしれないの。そこを任されそうなの」
「寧々、すごいじゃないか」
「うん。でもね、任されたら簡単に仕事を辞められなくなりそうだから」
「そうか。寧々も新たな仕事に頑張ってるんだな。海外勤務は今すぐの話じゃないんだから大丈夫だよ。そんなに気にしなくても。期待には応えないとな。そうだろう?」
「うん。ありがとう。せっかく与えられたチャンスだから」
「寧々に負けてられないな。僕も新しい部署で頑張るよ。ところでどこへ行くのかって聞かないよな。寧々はいつも」
「だってシュウの行く所なら、どこへでも行くよ」
ハッとした。自分の口を衝いて出た言葉に。もう答えは出てる。そうなんだ。思わず笑みが零れた。
「シュウ、私はシュウの行く所なら、どこへでも付いて行くから」
「寧々……」
膝の上に置いた手がシュウの大きな温かな手で包まれた。
「ありがとう。さぁ頑張って仕事をするぞ」
シュウの笑顔が、とても男らしく頼もしく見えた。