さざなみの声
3
綺麗な冬景色を堪能して雪までチラついて来た。こんな寒い季節もシュウと一緒なら温かい気持ちで過ごせる。もう少し冬のドライブを楽しんで、お腹も空いて食事の時間。体の芯まで温まる美味しい鍋料理に舌鼓。
シュウは
「これ、どうやって作るんだろう?」
すっかり料理研究家。既に私の料理を超えてしまっているのかもしれない。頼もしい限り。男の料理は徹底的にこだわりがあるようで。そういえばプロの料理人は圧倒的に男性が多い。納得。
「寧々、この辺りに日帰りで入れる温泉があるらしいんだけど、せっかくだから入って行く? 露天風呂もあるらしいよ」
「露天風呂? それって混浴なの?」
「う~ん、どうだろう。とりあえず行ってみるか?」
お鍋で心の中まで温まって、支払いの時に聞いてみた。店の人は、とても親切に場所を教えてくれて
「雪の舞う日の露天風呂は最高ですよ。ぜひ入ってみてください」
笑顔で教えてくれた。
お礼を言って教えられた通りに走った。小さな案内板なので見逃さないようにと言われたように本当に可愛らしい看板で通り過ぎてしまいそうだった。駐車場に車を停めて案内所に入った。
森の中という雰囲気の場所。聞いてみたら脱衣所は男女離れた場所にあって、でも露天風呂は塀で隔てられているだけで、もちろんお互い見えないようになっている。
「声は聞こえるし会話も出来ますよ」と教えてくれた。
「今なら、どなたも入っておられません」と言われ
「入ろうか?」
シュウに誘われるまま入る事になってしまった。料金を支払い何も持っていないのでタオルとバスタオルを購入する。それぞれの脱衣所に行き、脱いだ服やバッグを仕舞ってカギも掛けられる。カギをブレスのように手首に付けてバスタオルを巻いて外に出た。
寒い……。このまま立っていたら間違いなく凍死する……。
遠くにも近くにも山の常緑樹や落葉樹。本当に山の中。熊でも出そうだ。塀に囲まれた短い通路を歩くと木々に遮られて外から見られる事もない。
誰もいない。聞いてはいたけれど不安になって「シュウ」と呼んでみた。
「やっと来たな。寧々、遅い。もう入った?」
「今から……」
バスタオルを外してタオル一枚でお湯に浸かった。
「あったか~い。気持ち良い」
思わず言った。
「だろう? 良いお湯だよ」
「そっちも一人?」
「うん。貸切だ」
「そうね」
自然が作る水墨画の世界に私自身が溶け込んだように感じていた。すると細かなサラサラした粉雪がフワリと舞って下りて来る。
「本当、最高だ」とシュウの声。
「うん。綺麗」と私は応えた。