さざなみの声

5


 二人でコートを着込んで庭の散策に出た。

「本当に綺麗にしてあるな。洋風の庭も好きだけど純和風も憧れるな」

「私にとっては遊び場だったけどね。ここでよく、おままごとしたなぁ」
 御影石のテーブルとイスのセットに腰掛けて

「一人で?」

「一人じゃ出来ないでしょう? 近所の幼なじみとね」

「それって男の子?」

「男の子も女の子も居たわよ。近所に同じ歳くらいの子がたくさん居たの」

「ふ~ん。そうなんだ」

「なに? シュウってヤキモチ妬いてくれてるの?」

「妬く訳ないだろう。寧々はもう僕のものなんだから」

「ねぇ、シュウって意外と亭主関白に憧れてたりする?」

「そんなことないよ。理解のある旦那になりたいって思ってるけど」

「けど……?」
 首を傾げてシュウの顔を上目遣いに見た。

「寧々、その顔は反則。そんな顔されたら何でも言う事、聞いちゃいそうだよ」

「本当に? やった~っ。じゃあね……」

「何か欲しい物でもあるのか?」

「う~ん……。特にないけど……」

「何だ。あぁ寧々、今夜ここに泊めて貰おうかと思ってるんだけど構わないのかな。ご好意に甘えても。しばらくは実家に泊まるなんて事も出来なくなるから、どう思う?」

「うん。まだしなければならない事はたくさんあるけど……。簡単には帰って来られないのよね。シュウはいいの ?」

「僕は構わないよ。寧々のご両親に初めての親孝行かな? お父さん、お母さんと川の字で寝たら?」

「えっ? 今更恥ずかしいよ。そんなの……」

「寧々は十八歳で家を出たんだろう。一人娘なのに、きっと寂しかったと思うよ。お父さんもお母さんも、わざわざ言わないだろうけどな」

「そうよね。私すごく親不孝して来たんだよね。卒業しても帰って来なかったし、結婚するって決まったら今度はシンガポールへ行っちゃうんだもんね」

「ずっといつまでも傍に置いておきたいくらい大切に思ってくれてるはずだよ。でも我慢してくれてると思う。寧々の幸せを一番に考えてくれてるから、僕たちの事も気持ち良く許してくれた。感謝しないとな」

「うん。そうだね。シュウありがとう」

「大事な一人娘をいただいてしまう訳だし、親って大変なんだと思うよ。せめて一泊くらいはして傍に居たら少しは喜んで貰えるのかなって」

「じゃあ、今夜は川の字で寝ようかな。シュウは一人で寝てね」

「今夜くらい我慢するよ。その後は寧々をさらって行く訳だし」

「本当に寂しくない?」

「何年も会えなくなるご両親に比べたら、どうって事ないよ」
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