偽りの笑顔の内側に
六月の半ば、音楽室へと続く階段、快晴。

ここ数日で一番太陽の光がハッキリ見える。最近は雨が続いていて、外の階段になんか行くことができなかった。だから、今日ここで思いっきり活動できることがとてもうれしい。もはや感謝さえ覚えてしまう。

でもひとつだけ我が儘を言うとしたら、「気温を低くして欲しい。」これに限る。葉がたくさん生い茂り、夏に向かっていく今の季節・・・。もちろん、雨が降っていなかったら

二十度をかるく超えるほど暑い。太陽の下にいると、立っているだけで汗が涙のように溢れ出してしまう。日頃、外に出ない自分がこう思うほどだ。外で行う部活動の人たちはどれだけ暑い思いをしているか――。



――考えたくもない。



運動部の人には申し訳がないが、あたしが今練習している場所は屋根のある階段だ。少し日光が遮られているからか、グラウンドよりはつめたい風が吹いているように感じる。後ろから大きな風が背中を押すたびに、髪がなびき、顔の前で生き物みたいにうねうねとうごく。まるでヘビを頭に飼っている化け物のようだ。そのうごきにあわせて紙がゆらゆらとゆれる。

さぁ、今日もやるか。

毎日こんなくだらないことを考え、目の前の物に口をつける。

普通の日常、普通の生活、普通の女子高校生。

こんな平凡な日々に終止符をうちたい。







なんてことは一切おもわない。というか思うわけがねぇ。

だってまず、あたしは「普通」じゃない。他の人と違う?とこが多いらしい。全然わかんねぇけど。小学校に上がる前から男とばっかり遊んでたせいか言葉づかいがわりぃ、わかってっけど治せる気がしねぇ。まぁ、これは親もあきらめてるし、あたしはなんとも思わないからどうでもいい。(他の人からしたらどうでもいいことじゃないかもだけど。)

それより、あたしがおかしいと思うことは他にある。それはちぃせー頃から母ちゃんの方のばあちゃんに言われ続けてることだ。

『美香ちゃん、美香ちゃんは誰とも付き合ったらだめなんだ。呪いがかけられてるからね。先祖の人が悪いことしたらしくてねぇ。その呪いが今も続いているんだ。ばあちゃんも、美香ちゃんのお母さんもその呪いにかかっているんだよ。だから、絶対に人のことを好きになっちゃぁいけない。もし、その好きな人と付き合ったら美香ちゃんとその人、二人とも死んでしまうんだ。ばぁちゃんとの約束守れる?』



この話をかれこれ何回聞かされたっけな。少なくとも二百回は聞いてる気がすっぞ。

あたしは、もともとれんあいとか、こいとかに興味がないほうだ。知ってることは、《こい》が魚の《鯉》とは違うってことだけだ。魚の話してたら鯖食べたくなってきた。今日母ちゃんにきいてみるか。魚の話は措いといて、こんな感じで呪いのことなんてまったく気にしていないのだが、ばあちゃんは何回も何回も聞いてくる。そんだけ大事なことなんだろうな。小さいときは、ちゃんと話を聞いてたんだが最近は「うん。」とか「わかった。」とか言いながら半分ぐらいききながしてる。それでもあたしがばあちゃんの話を聞き続けるのにはちゃんと理由があるんだ。その呪いにかかっているあたしをかわいそうと思ってからからかはわかんねぇけど、『約束を守る』とあたしが返事をすると、ばあちゃんが必ずこういうんだ。

『そうかい。ありがとうねぇ。じゃあ、おりこうさんな美香ちゃんにそんなことがどうでもよくなるような遊びを教えてあげようか。』



 この言葉を初めて聞いたときからあたしは今、口に当てている楽器、ユーフォ二アムにとりつかれていった。



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