黒の殺し屋と白蓮の騎士との甘い異世界恋愛
「雪。どうして、私やお母さんや他の人たちを、ここの世界からマカライトの世界へ呼ぶ事にしたの?」
『それを話すと少し長くなるけれど。いいかな?』
「ええ。あと、3日もあるのよ。」
『確かにそうだね。』
リビングにあるソファに2人で座る。そして、どこからともなく、いい香りがするココアが雪の手に現れ、それを水音に渡してくれた。
自分の分も出すと、一口それを飲んだ後、雪はゆっくりと話始めた。
『僕がもらった国は、昔から争い事が絶えなくて、いつも最後は大きな戦争でみんな死んでいってしまった。僕はマカライトが大好き、そこに住んでいる人に苦しんでほしくない。けど、どうやっても戦争は起こった。水音がいる世界もそうだけど、今は少しずつ減っているだろう。国の中でも、争い事は前よりは減っている……だから、ここの国の人がその知恵をマカライトの人たちに与えれば、少しは変わっていくかなって思ったんだ………。』
「それでそんなことを。」
雪は、切ない顔でそう言いながら申し訳なさそうに水音に謝った。
『神隠しみたいに、突然さらってしまってごめん。君もそして、君のお母さんも。』
「ううん。私もお母さんも自分でマカライトの国に戻ろうとしてるぐらいだから、あの国の人が好きになったんだよ。」
『……そう言って貰えると僕も嬉しいよ。』
雪は、ただの人間の男の子のように、本当に嬉しそうに笑った。それを見ると、神様として生まれたのか人間として生まれたのかだけの違いなのではないかと、水音は思ってしまう。
刻印を持って生まれた、マカライトの人々と同じように。
『戦争で死ぬ人を少なくするために、僕は刻印の制度を作った。それにより、死んでいく人も少なくなっていたんだ。けれど、人々の笑顔はこちらの人よりも少なくて、本当にこの世界でよかったのか。ずっと考えていた。けれど、雪香と君はそれに異を唱えた。それは何故かな。僕はそれを知りたいんだ。』
雪は、とても温かい手で水音の手をギュッと握ったら。その強さは、とても強くて雪の気持ちが伝わってくるかなようだった。
彼は迷いながら、マカライトの国が幸せになることを願っている。だからこうして、こちらの世界を見て、人の幸せとは何かをずっと見てきたのだろう。
「きっと人は誰かのために生きたり、自分の夢のために生きたり、目的や希望がないと生きるのが難しくなる。だから、黒の刻印を持って生まれた人は、子どもの頃から夢も希望もなく、生きることで必死に過ごしていて……。そうなると楽しくもない。逆に白蓮は不自由のない生活をしていて幸せに見えるけど、でも、それは頑張らなくてもいい暮らしでもあり、それ以上はない。それに、誰かの犠牲の上にある幸せで、本当の幸せにはなれるかな?って思うんだ。シュリのように迷う人は沢山いるはずです。」
『それで、君は皆が青草になることを望むんだね。』
「ええ。青草が1番、この世界の人々と似ている気がして。雪もそう思わない?」
『あぁ……僕も青草の街の活気が、1番キラキラとして生きている人たちの輝きを感じるよ。』
気持ちを共感してくれる雪の笑顔を見て、雪もわかってくれた。そう思えて、水音はホッと安心してしまう。
けれど、それもつかの間の微笑みであり、すぐに真剣な表情の雪に戻っていた。