黒の殺し屋と白蓮の騎士との甘い異世界恋愛
『けれども、君たちはそれを巡って傷つけあっている。それに、君の世界が誰でも幸せだとは限らないよね。……君が、マカライトを選んだように。』
「それは、そうだけれど……。」
『僕はあの国を守るものだ。結果がでなければまた、違った方法を考えなければ行けない。けれど、人間のいきる時間は短い。すぐに結果が出るわけでもない。』
「………そうだけど。やらなければわからないよ!今でもスラムで苦しんでいる子ども達が沢山いるわ。だから、やってもがいてからでも遅くない。」
神のような存在の人に、何を言っているのだろうか。それでも、言わずにはいられなかった。
シュリやレイトが、苦しんでいる。親しかった友達をも苦しめあって闘っているのだ。
それを止めたいと思うのは、救いたいと思うのは、神様だって同じはずだから。
いつもより早口で、そして強い言葉を言ってしまい、水音は少しだけ呼吸を荒くしていた。
そんな必死な様子を見て、雪はくすっと笑った。
『雪香と同じですね。彼女も同じようなことを言っていました。』
「じゃあ………。」
『10年経ってもマカライトの人々が元と変わらなければ、あなたを強制的にこちらの世界へ戻します。それでよければ、あなたの考えに協力しましょう。』
「………ありがとうございますっ!」
水音はあまりの嬉しさに、笑顔ですぐに深く頭を下げた。すると、雪がクスクスと笑っている。不思議そうに顔をあげると、雪は困ったように笑っていた。
『あなたは、失敗してこの世界に戻るのが怖くないのですか?10年も自分がいなかった世界はきっと、変わり果てていて、孤独になるのに。』
「そうだけど……。でも、シュリやレイトと一緒なら、私は大丈夫な気がするの。だから、失敗は怖くないかな。」
シュリやレイトが仲直りをして、マカライトの国のために3人で一生懸命働きながら暮らしていく。
きっと、それは素晴らしく楽しくて、充実して、幸せな日々だろう。
想像するだけで笑顔になってしまうのだから。
『さて、あなたは疲れているはずです。今はゆっくり寝てください。』
「待ってください、まだ聞きたいことが……。エニシさんの事とか………。」
『いいから、おやすみなさい。』
雪が、水音の額に人差し指を当てる。
すると、一瞬で水音の体の力が抜けて、倒れそうになる。それを雪が支え、抱き上げて別室のベットまで運んだ。
『人間の血が入ると、やはり弱くなる物なのですね。休まなければ疲れてしまうなど、脆弱だ………。』
そう言いながらも、雪は水音の顔についた髪を丁寧にはらい、そして頭を撫でた。
『本当にあなたは雪香に似ています。……おやすみなさい。私の愛しい娘よ。』
そういうと、雪は水音の頬にそっと口づけして、部屋から出たのだった。