黒の殺し屋と白蓮の騎士との甘い異世界恋愛



 『そうなのです。人間の命は儚すぎる。だから、私も寂しかった。そして、死んでしまう命をただ見ていることが出来ない、未熟な存在でした。だから、エニシがいるのです。』
 「エニシさん…?どいういう事?何故、彼の名前が…。」
 『彼は私が作った最初の一人が彼なんです。』
 「えっ……。」


 雪は懐かしむように、とても遠い昔の話をしてくれた。世界を貰い、ゆっくりと大地と生き物を育て、やっとの思いで人間が住める場所を作った。
 そして、そこに始めに作ったのはエニシだと。
 
 『これから、沢山の人間と出会い結ばれるように、私がエニシ(縁)と名付けました。その子が寿命で死にそうになったとき、私はそれを止めてしまいました。その子は、まだ自分の他の人間に出会ってもいなかったし、何より……私が一人になるのが寂しかったのです。それで、不死の力を与えてしまったのです。』
 「だから、あんなにも強かったのね……。」
 『そして、あの子はレイトと同じように白蓮に強い執着があります。黒になってしまった時に酷い扱いを受けたようです。死なない体を良いことに、とても惨い事を………。』



 雪が顔を歪ませる。
 水音がそれを想像するだけでも悲しくなり、そして、エニシの気持ちを思った。

 死ねない体でひとりだけ生き残り、そして黒になれば死ぬほどの、苦痛を永遠に与えられる。
 それはどんなに辛いことなのだろうか。水音が思う以上の痛みや辛みだろう。
 彼が水音に余計なことをしないで欲しいと願うのは、彼が白蓮以外の刻印になることを強く恐れている結果だろう。


 『エニシは私の大切な子です。私が責任をもって何とかしましょう。』
 「……はい。」


 エニシはシュリと戦って倒れたと思っていたけれども、不死となれば話は別だ。
 水音が戻っても、エニシはきっと邪魔をしてくるだろう。自分が白蓮でいるためにも。だが、雪が何とかしてくれると言うならば、それに頼るしかないのだ。

 今、シュリがマカライトの国でどうなっているのか、水音にはわからないのだから。
 見違えでなければ、水音が湖に沈む瞬間に見たのは、彼がレイトに斬られて倒れる所だった。
 それが見違えであって欲しいと、水音は思っているが、彼の安否は水音がマカライトの国に戻らない限りわからないのだ。
 水音の表情を見て、何を考えているのかわかったのだろう。雪は、優しく教えてくれた。



 『安心してください。シュリは、生きてはいるみたいです。』
 「本当ですか!?」
 『彼が死んでしまえば、きっとあなたの刻印は消えているはずです。あなたの胸元には、まだ刻印はありますね。』


 
 水音は、雪が居るのも構わずに、自分のブラウスのボタンを外して胸元を見た。
 水音の胸元の肌には、綺麗な白蓮の花が咲いていた。それを見て、水音はホッと息を吐いた。


< 104 / 113 >

この作品をシェア

pagetop