黒の殺し屋と白蓮の騎士との甘い異世界恋愛
部屋の窓が、コンコン、コンコンと誰かに小さく叩かれる音が聞こえた。昼間でも薄いカーテンをしていたため、窓の外に誰がいるのかはわからない。
それにここは2階だったはずだ。
それを思い出すと、水音はずっと握ったままでいてくれたシュリの手を今度は自分から強く握り返した。
すると、シュリはクスクスと笑って「何びびってんだ?」と言って、水音の手を離し、窓辺に近づいた。
彼の体温が急になくなり、水音は少しだけ寂しさを感じ、そしてそんな気持ちになった事に驚きを感じてしまう。昨夜も同じように彼に抱えられながら、彼の体温を感じ安心してしまったのだ。水音は自分が弱っているのだと改めて感じ、そして、弱っているせいだと思うようにした。
シュリが、ゆっくりとカーテンと窓を少しだけ開けると、小さな客人が部屋に入ってきた。
「あっ、あの白い小鳥ちゃん!」
「………なんだ、おまえ知ってんのか?」
「元の世界で、この小鳥が湖に落ちちゃって。助けようとしたら、この世界に来たの。」
水音はフラフラだった小鳥が、湖に落ちてしまったのを助けようとして、溺れてしまったのだ。そして、気がついたらここにいた。小鳥のせいで、こちらに来てしまったとも思えてしまうけれども、きっとこの小鳥に非はないのだろう。
それにしても、元の世界の事がすごく昔に感じてしまうけれど、昨夜の出来事だから不思議だった。
「でも、よかった。小鳥ちゃん無事だったんだね。」
自分がどうやってこちらに来たかを、シュリに伝えると、シュリは少し笑って、白い小鳥の顎を指で撫でた。すると、気持ちがいいのか、小鳥は水色の目を閉じて、心なしか嬉しそうな顔をしていた。
「なんだ。雪がこいつを呼んだのか。」
「雪?」
「こいつの名前だよ。」
名前を呼ばれたと思ったのか、小鳥は「ピピッ」と鳴いた。水音が雪を眺めていると、足に何かが付いているのに気づいた。
「シュリ、雪の足に何か着いてるわ。」
「あぁ…………。」
そういうと、シュリは小鳥の足についていた紙のような物を取り、広げて何かを読んでいた。
手紙のような物かと思い、元の世界の伝書鳩を思い出した。
「仕事にが入った。」
「え、お仕事………?」
シュリは、紙をくしゃくしゃにしながらそう言い、読み終えた紙を、部屋を温めてくれている火の石が入ってる器の中に投げ入れた。
紙はあっという間に燃えてなくなってしまう。
手紙の内容や、仕事の事を知りたかったけれど、もう消えてしまったのだ。
シュリは、いろいろな事を教えてくれるが、自分の仕事の事は隠そうとしていた。それは、昨夜聞いた時にわかってしまった。
人に知られたくない事は誰にだって、1つぐらいはあるはずだ。だから、気にしてはいけない。
そう思っていながらも、水音は気になって仕方がなかった。