黒の殺し屋と白蓮の騎士との甘い異世界恋愛
「帰るのは夜中になりそうだから、勝手に寝てろ。あと、夕飯はそこら辺にあるもの食べてろ。」
「うん………。」
シュリは黒のジャケットを羽織り、寒さのためか、焦げ茶色のマフラーを首にぐるぐると巻いていた。玄関のドアの前で乱雑に黒の皮のブーツを履いながら、くるりとこちらを向いた。
「………どうしたの?忘れ物?」
「絶対にこの家から出るな!わかったな。」
「窓から外を眺めるぐらいは………。」
「ダメに決まってるだろっ!」
そう言うと、シュリはさっさと外へ出ていってしまった。
彼の足音と、シルバーのアクセサリーがシャラシャラと聞こえてきたが、それもすぐに消えてしまった。
「自分は出ていっちゃうくせにずるいわ。一緒に連れて行ってくれてもいいのに。」
そう思いながら、イスに座ると白い小鳥は、まだテーブルの上にちょこんと居た。
「雪は、シュリのお友だちなの?」
「チチっ!」
言葉がわかるのか、頷くき返事をした雪が愛らしく、水音は恐る恐る指で雪を撫でようとする。
雪は、首を傾げながらも逃げようとしなかったので、シュリの真似をして顎を軽く撫でると、嬉しそうに目を細めた。
「か、可愛い…………。」
しばらくの間、水音は雪と穏やかな時間を過ごした。
パンをあげると雪は喜んで食べてくれたが、満腹になった頃には、開いていた窓の隙間から飛び去ってしまったのだった。
「1人か………。」
考えてみれば、このマラカイト国に来てから1人きりになったのは始めだけで、その後はシュリがいてくれた。まだ1日も経っていないけれど、見知らぬ国で1人きりにならなかったのは不幸中の幸いなのかもしれない。
けれども、この国では自分は重要人になってしまったのだ。
これからは、一人で過ごす時間も限られてくるかもしれない。