黒の殺し屋と白蓮の騎士との甘い異世界恋愛
はっはっと、白い息を吐き、ヒールをカツカツと鳴らす。水音がジャケットを脱ぎたくなるぐらいに暑さを感じた頃、気がつくといつもの湖に到着していた。
幼い頃から、毎朝ここに訪れて湖にお祈りをしていた。それは、母親がやっていた事の真似だったが、母にいつも「あなたも祈ってね。」と言われていたので、理由はわからないまま誰の幸せを願っていた。
左手を丸め、右手で包む、そして、目を瞑って祈るのだ。
それを今でも毎日の日課としていた。
いつもは、緑色の木々や紅葉の赤や黄色に囲まれ、碧色の水が綺麗な湖だったが、夜になると雰囲気が違っていた。
「ちょっと怖いけど、月明かりが綺麗………。」
真っ黒な木々と、月明かりが当たり、光輝く湖を見て、水音はそんな事を思っていた。
だが、その水面に写っていた綺麗な月が、ポチャンッという音と共に崩れた。
「小鳥ちゃんっ!?」
暗闇に目を、凝らすと小鳥が湖に落ちて、バタバタともがいているのがわかった。
「嘘っ!?どうしよう……。」
水音は、心配そうに見つめ、どうやって助けようかと考えてしまう。長い棒を見つけても、届かない距離であるし、小鳥が掴まってくれるかもわからない。他に方法は追い付かない。
「やるしかないっ!」
水音は、靴を脱ぎ上着のジャケットを脱いだ。
そして、ゆっくりと湖の中に入ったのだ。
「冷たっっ!」
11月の冬の気温だ。それに、湖の水も凍るように冷たかった。けれど、少し先にいる小鳥もこの冷たい中で苦しんでいる。そう思うと、水音は一気に足を進めた。
この湖はそんなに深くないと聞いていたので、一気小鳥の方へと歩いていく。
服が水分を吸って重くなり、水温は肌を刺すように冷たかった。それでも、必死になっているせいか顔だけは熱かった。
「待っててね、小鳥ちゃん。あと少しだから。」
あと数歩歩けば、小鳥に手が届く。
気がつけば、胸の辺りまでの水位になっていた。
動きにくいが、水音は腕を上げて小鳥に向けて手を伸ばした。
バタバタとしているが、もう大丈夫。と、小鳥を手で掬い上げた、その瞬間。
最後の一歩が水中を切った。地面がなかったのだ。
「嘘っ……………。」
そう思った瞬間に、水音は全身が湖の中に浸かってしまう。
必死に水面に顔を出そうともがくが、何故かどんどん底へと吸い込まれていく。水の流れがおかしい。そんな事を思いながらも、息が出来ない苦しさと、全身の寒さでパニックになりそうだった。
そんなとき、手の中からほんのり温かさを感じた。湖の中は真っ暗で何も見えなかったが、両手包んだ中には小鳥がいることを思い出した。すると、不思議と冷静になれた。
水音は、ギュッと小鳥を胸に抱き締めて、少しでも呼吸が出来るようにと手で優しく包み続けた。
(苦しい………もうダメだ。)
あまりの苦しさに涙が出た。それを暖かいなと感じた時、水音は意識を無くした。