黒の殺し屋と白蓮の騎士との甘い異世界恋愛
「隊長だ……!」
「ヤバイぞっっ!」
そう言って、白騎士達は急に姿勢を正して立ち始めた。水音は、その様子をただ呆然と見つめていた。
すると、カツカツと優雅に歩く一人の男が、こちらにやってきた。
金髪の髪に真っ白な肌、整った優しげのある顔に、細身だけれども筋肉がついているのか、がっしりとしている体、背もシュリよりも多少高いように見えた。
元の世界では王子様と呼ばれるぐらいの完璧な容姿の男を見て、水音は言葉を無くしてしまった。
他の白騎士と同じ甲冑を身に付けているけれど、肩からはマントのような赤い布のようなものがついており、歩く度になびいていた。
「君、大丈夫か?うちの者達が、無礼な事をしてしまってすまなかった。今は他に着るものがない。脱いだ服を着てくれるか?」
青く光る瞳でこちらをじっと見つめながら、微笑むようにその金髪の男は言った。
他の白騎士たちに隊長と呼ばれていたので、この男が白騎士隊の隊長なのだろう。
金髪の男に言われたとおりに、水音はシュリの部屋着を急いで身につけた。
それを見終えると、男は安心して微笑んだ。
「おまえたち、無色の君には丁重に扱えと言ってあっただろう!」
「はっ!すみませんでした!ですが、見た目からら無色だとわからなかったもので……。」
「言い訳にはいい。これ以上、俺を怒らせないでくれ。」
「…申し訳ございません!」
先ほどまで偉そうにしていたリーダー格の男は、すっかり縮こまってしまい、隊長の言葉にただ従っているだけになっていた。
「無色の君。失礼するよ。」
「え……?キャッっ!」
金髪の男は、優しく水音の膝の裏に腕を通して、腰を支えて抱き上げた。
王子様がお姫様にする、元の世界では「お姫様だっこ」といわれるものだった。
ゴツゴツした甲冑の感触だったが、何故か彼に抱かれていると安心してしまっていた。
「あの、私、歩けます。それに、せっかくの綺麗な白の甲冑が血で汚れてしまいます……。」
「………この甲冑はもうたくさんの血を浴びているよ。もちろん、僕もね。」
隊長の男は、先ほどの凛々しさからは一転して、少しだけ寂しそうな顔をしていた。
水音は、その表情を見て「この人は信じてもいいかもしれない。」と、そんな事を思ってしまった。
「僕は白騎士隊長で白蓮の風早レイト(かぜはや玲人)だ。」
そう言って、にこやかに微笑む彼の顔には、先ほどの泣きそうな表情はどこにもなかった。