黒の殺し屋と白蓮の騎士との甘い異世界恋愛
寒い………凍えそうだ。
このまま、死んでしまうのだろうか。
動けない体を何かに身を任せて横たえながら、感じていた。
すると、遠くからこちらに向かってくる足音と、ジャラジャラという金属同士がぶつかる音が微かに聞こえた。
そんな音を感じながら、自分は生きているのか。それとも、死んだ後の世界なのかわからなかった。
「………おい、生きてるのか。死んでないよな………。」
乱暴に言い捨てる男の声が聞こえた。低めの声で、言葉は雑だが、暖かみのある声だった。
自分でも、生きてきるのかわからないのだ。答えられるはずがない。それに、もう体は疲れきっていた。口を動かすのも億劫になっていた。
「死なれたら困るんだよな……ったく、面倒だなっ。」
そんな言葉が聞こえた。
次に感じたのは、唇に何かが当たり温かい感触。そして、顎に指を当てられ口が開かされた瞬間、ぬるりとした物が口の中に入ってきた。
「………っっ………んんーーー!」
口の中で動く感覚に、ドキリとして水音は目を開いた。すると、自分が知らない人にキスをされていた。
水音は気だるい全身だったが、残りの力を全て込めてその男の体を手で思いっきり押した。
「ん?………なんだよ、起きたのか。」
その男は、すぐに避けて水音から離れた。
水音はゆっくりと体を起こして、その男を睨み付けるように見つめた。
その男は月明かりで光る銀色の髪に、褐色の肌、そして瞳は夜空のように真っ黒だった。上下の服も真っ黒で、フードもついているようだったが、今はそれを外していた。首や、耳、指や、腕などには、ジャラジャラと沢山のシルバーアクセサリーをしている。彼が少しでも動く度に、そこから小さな音が鳴っていた。
「……あなた、誰?それに、何であなたに、あんな事をされなきゃ………!」
「………なんだ?お前がここで倒れてたから助けてやったんだろ。人工呼吸ってやつ?」
「人工呼吸は、舌を入れないで空気を入れるの!」
そう言うと、その男は中性的な顔を歪ませて笑った。月明かりに照らされた彼は、人ではない何者かのように美しく儚い印象をあたえた。
長身に細身の男をよくよく見ると、手に何かを持っていた。
目を凝らすと、先端にドロリとした液体がついた、短剣だった。刃がこぼれており大分使い込んでいるもののようで、持ち手もボロボロだった。だが、そんな事よりも目がいくのは、その短剣からポツポツと流れ落ちる、血だった。
「無色の君。おまえを待っていた。」
その男は、水音の事を真剣な面持ちで見つめ、そう言った。
キスをされたり、血の着いた短剣を持った男が怖いはずだった。
それなのに、彼の視線も、声も全てが水音の心の中に深く響き、恐怖感よりも何故か「この人を知りたい。」そんな風に感じてしまっていた。
吸い込まれそうな真っ黒な瞳を、水音はずっと見つめ続けていた。