黒の殺し屋と白蓮の騎士との甘い異世界恋愛
「はぁー。気持ちいいなぁー!」
大きな浴槽を独り占めできて、水音は少しだけ特別な気持ちになってしまった。浴室の中には、いくつもの貴石が入っており、水を足したり、お湯を適温にしたりしているようだった。
窓からは、レイトの家の庭園が見えた。
白い花が多く咲いていた。レイトの家や家の中の家具は白いものが多かった。
「レイトさんは白いものが好きなのかなぁ?」
そんな独り言を溢したときだった。
誰かがドアを開けて入ってくるのがわかった。体を洗うのを手伝ってくれるつもりだった、マナだろうと水音は思った。
女であっても、裸を見られるのには抵抗がある。
入り口に背を向けるようにして、肩までしっかりとお湯に浸かった。
「マナさん、体は自分で洗い終わったから大丈夫ですよ?」
「……それは残念です。」
「へ……?!キャアーッッ。」
予想外の声が聞こえて、振り向くとそこにエニシの姿があった。
「やあやあ、お嬢さん。また会ったね。」
「え、エニシさん。何でこちらに?というか、何でお風呂に入っちゃうんですか??」
エニシは、挨拶をしながらそのまま水音が入っていた浴槽に入ってしまう。
一応、腰にタオルを巻いているが、水音は何も巻いていなかったので、浴槽から出る事も出来なくなってしまう。
まだお湯が濁り湯だったのが不幸中の幸いだ。
「あの、エニシさん……その、お風呂は別々に入った方が……というか、何故レイトさんのお屋敷にいるのですか?」
状況がよく把握出来ず、頭を混乱させながら、エニシから逃げようとする。けれども、浴槽の中をズンズンと進んでこちらに向かってくる。
湯気でよく見えないが、エニシは意外にも引き締まった体をしていた。きっと、彼に捕まったら水音が逃げることは出来ないとすぐに理解した。
「実は、レイトとはお友達でねー。よく来るんだ。それにレイトのところに無色の君が来てると噂が流れていたからね。一目拝見したくてね。」
「だからって、ここまで来なくても……。」
「無色の君が湯に使ってると聞いてね。一緒に入れば、拝見もできるし、話もできるし、僕もお風呂に入れる。いい考えだと思ったんだけど。」
「……そろそろ、体が熱くなってきたので上がろうかなーと思ってて……。」
湯気がたくさんあるので、少しぐらい裸が見られるぐらいならば……と思い、浴槽から出ようとした瞬間。
エニシは一気に水音との距離をつめて、水音の腕を掴んで行く手を止めた。
「やっぱり、無色は君だったんだね。見た瞬間、そんな気がしたんだ。」
「………離してくださいっ……。」