黒の殺し屋と白蓮の騎士との甘い異世界恋愛
「僕の願いは、今の世界を変えないで欲しいって事だ。きっと、君はこの世界を変えようとするだろ?それは止めてくれないかな?」
「………それは、どういう……。」
「もし変えてしまったら、そうだな。君を殺すよりも酷いことをしてしまうかもしれないから覚悟をしておいて………。」
最後の台詞は、ニヤリと冷酷な微笑みだった。それを間近で見た水音は、背筋が凍りついた。
そこまで言った時だった。
「エニシっ!!何をしている?!」
ドアが乱暴に開いた。
入ってきたのは、白いスーツを着た、レイトだった。顔には怒りと焦りが見られた。
「あーあ。邪魔が入っちゃったね。あ、あと1つだけ忠告。あの、黒の男を信用しないようにね。大きな嘘をついているよ。」
「え……。キャッ!!」
急に腕を離されてしまい、水音はそのまま浴槽に落ちてしまう。
今の言葉の意味を問おうと思ったけれども、浴槽から顔を出した時は、すでにエニシは、浴室から出ようとしていた。
「おまえ、彼女に何をしたっ!?」
「別に。話をしただけで、レイトが思っているようなことはしてないよ?あ、でも………彼女の体、本当に刻印はなかったよ。」
「っっ!!エニシっ!」
レイトは、彼に掴みかかろうとしたが、それを上手くかわしてエニシはすぐに出ていってしまった。
ため息をつきながら、それを見送ったレイトは、ゆっくりと水音に近寄った。
「大丈夫か?水音。」
「あ、はい………あの、ありがとう、ございます。」
「ここにタオルを置いておくから。あと着替え終わったら話を聞かせてくれ。」
そう言うと、レイトは水音を申し訳ない顔で見つめ、ゆっくりとドアから出ていってしまった。
水音は、エニシが強くつかんだ腕を見つめた。そこには彼の手の跡が、くっくりと赤く残っていた。
震える体を、自分の腕で抱き締めしめながら、水音はしばらくお風呂から出れずにいた。
この世界を怖いと、強く思ってしまった。