黒の殺し屋と白蓮の騎士との甘い異世界恋愛
19話「穏やかな時間と不穏な足音」
19話「穏やかな時間と不穏な足音」
その黒髪の女性は、次の日も湖にやってきた。
「あらあら。今日もここに居たのね。はい、今日はサンドイッチって言うのを持ってきたわ。お腹すいてる?」
「………あんた、何で俺たちに食い物くれんだよ?あんた、白蓮の刻印だろ?」
シュリは、差し出されたパンを受け取らずに、その女に向かってそう言った。
すると、その女は初めて悲しい顔を見せた。けれど、それを隠そうとしているのか、泣きそうな顔で笑っており、逆に切なさが増した表情になっていた。
「坊やたちと同じ子どもがいるって言ったでしょう?私はもうその子と会えないから。だから、あなた達を見てると自分の娘に思えてきて。……ごめんなさい、違う人を重ねて見るなんて失礼よね。」
そう言うと、黒髪の女は目を潤ませたまま謝った。
何で会えないのか、そんな理由はわからない。
けれども、シュリは母親と同じぐらいのその女が泣いているのをただ見てられなかった。
それは彼女と同じで、自分も母親と重ねてみているからだと気づき、お互い様だと思ってしまった。
「食べ物くれるなら、俺たちの事、子どもだと思っていい。」
「………え?」
「ただし、娘じゃなくて、息子、だかな!な、レイト。」
「う、うん!昨日のお菓子のパンおいしかったです。ありがとうございました。」
偉そうに立つシュリと、ペコリと頭を下げてお礼をするレイトを見て、女は驚き、そして涙を流しながら笑った。
「ありがとう、坊や達。」
そうやって、雪香とシュリとレイトの3人は出会ったのだった。