黒の殺し屋と白蓮の騎士との甘い異世界恋愛
「あーもう来たのかよ。………おまえ、本当にめんどくさいな奴だな。ったく、仕方がねーな。」
「え………きゃっ。」
銀髪の男に、腕を引っ張られたと思ったが、すぐに体がふわりと浮き、気づくと体が肩に引っかけられ、荷物を抱えるよう乱暴に扱われてしまう。
男は服についてるフードを深く被った。顔が半分以上隠れている。他の人が見ても、もう誰かはわからないようになっているだろう。
「いや、怖い……。」
「うるせーな。目でも瞑っておけ。」
男がそう言い捨てると、すぐに夜道を走り始めた。体動く度に、体が激しく揺れるので水音は舌を噛まないように、ギュッと口を縛った。
銀髪の男は身軽で、走るのが早かった。水音を追っている集団は灯りを持っていたが、水音と銀髪の男が見つかる前に、森の奥へと逃げ込んでいた。
水音は男に抱えられながら、一瞬だけ湖の方を見つめた。ポツポツと灯りが見え、今までふたりがいた場所をうろうろと探していた。
そして、その光りで遠くからだがその人たちが一瞬、暗闇でも見ることが出来た。真っ白な鎧を身に付け、手や腰には大きな剣が見えた。
見るからに戦いを目的としている人たちに追われているのだとわかると、水音は全身に鳥肌がたち、ガタガタと震えていた。
「なんだ、おまえ怖いのか?」
「………。」
「まぁ、あいつらについて行って、上手くやればいい暮らしは出来たかもしれないな。………それが、幸せだと思うなら、そうすればいい。だが、今はその時じゃない。」
「………私は、まだどうすればいいか、わからないわ。」
「だろうな。」
そう言うと、男はまた足を早めた。
湖の木々を抜けると、本当ならば人が住んでいる建物が見えるはずだ。それに道路の街灯があるはずだったし、走る車も見かけるのが普通だ。
けれども、男に抱えられて走る道はずっと変わらない森の中だった。
薄々と感じていた違和感。
本当は気づいていたけれど、認めたくなかったのだ。
ここは、水音が本来暮らしていた場所ではない、違う世界なのだと。
怪しげな男に抱えられながら、彼の体温を感じる。それは、夢ではないという証拠だと水音は思った。
異世界に来て、水音は自分がこれからどうなってしまうのか。それを考えるが、何を思っても絶望しか残らなかった。
水音は銀髪に抱えられたまま、こっそりと涙を流した。それは、誰にも気づかれないまま、夜の闇に消えていった。