黒の殺し屋と白蓮の騎士との甘い異世界恋愛



 「じゃあ、すぐに湖に行ってみようか?」


 水音は、早く自分の考えを確かめてみたくて、勢いのまま動き出そうとした。立ち上がりかけた水音をシュリは止めた。


 「いや、それが今日だけはたぶんだめだ。」


 シュリは、「タイミング悪いんだけどな。」と苦笑した。水音はその理由が、よくわからずに首を傾げる。

 
 「今日は1日なんだ。」
 「あ……私が元の世界と湖が繋がる日……。」
 「あぁ。俺はいくら湖に潜ってもいけなかったが、水音は別だ。雪香さんは1度元の世界に戻っているからな。間違って戻ってしまったら意味がないだろ。」
 

 水音の母親である雪香は、水音に刻印がつかないようにと、元の世界へ戻っている。お腹に赤ちゃんがいる状態で湖の中に入るのは決死の覚悟だったと思うが、それぐらい必至だったのだろう。


 「そうだね。もう元の世界に帰るつもりはないから。今日は止めましょう。」
 「……あぁ。」


 少し安心したシュリの顔を見て、水音も優しく微笑み返した。

 
 「あのね、レイトに会って話しをしたいの。湖に行く前に……。」
 「水音!それは、ダメだ。今のあいつは何をするかわからないぞ。」
 「そうかもしれないけど……シュリの大切な友達なんでしょ?」


 水音がそう言うと、シュリはそのまま俯いてしまう。
 きっと、今のレイトが刻印の交換ではない事をしてしまうと、きっと激怒して納得してくれないかもしれない。
 昔の辛い経験や、白蓮への憧れは、そう簡単にはなくならないのは水音にもわかっていた。
 けれど、短い間だったけれどレイトと過ごしているうちに、彼はシュリと似て、素直な少年のままの男の人だとわかったのだ。重ねて見えてしまった事があったのは、そのせいだろう。

 レイトに会いに行ってしまえば、もしかしたらまた連れ去られてしまうかもしれない。
 けど、決行してしまう前に彼に会いに行きたいと思ったのだ。
 きっと、シュリも少しはその事を考えたと思う。けれど、水音を連れ去られたり、考えもしない事をされると考えると、彼が反対する理由もわかる。


 「そうだけど………。」
 「なんだー。会いに行ってあげなよ。」
 「えっ……。」



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